打ち上げ成功の瞬間 、わき上る歓声
「やったぁー、成功だ! 」。2005 年7月10日、鹿児島県にある内之浦(うちのうら)宇宙空間観測所に大歓声が上がりました。科学衛星「すざく」がロケットから切り離され、無事、軌道(きどう)に乗って正常に動作し始めたことが確認された瞬間です。見守っていた数十人のスタッフに感動の波が伝わり、皆が握手を交わしています。だれの目にも涙が浮かびます。水島さんも涙が止まらなくなりました。
5年前の失敗の経験を乗り越えて
水島さんの仕事は、「すざく」を使って観測をする天文学者や研究者たちから、どのような観測データがほしいのか、望遠鏡をどのように使いたいのかなどをくわしく聞いて、観測機器を載のせる人工衛星をどんな形にするか、どんな仕事をさせるのかを考え、作っていくことです。「ブラックホールを観測したい」とか、「宇宙空間を作っている物質を知りたい」という研究の目的をちゃんと理解して、機器がどう動けば希望通りの観測ができるかを、いっしょに考えます。
1つの人工衛星の開発には、だいたい5年かかります。その間、水島さんは、研究者の希望を聞くために、神奈川県相模原(さがみはら)市にあるJAXA(宇宙科学研究本部)に何度も足を運びました。
実は、水島さんたちは、5年前の打ち上げで失敗を経験しました。ロケットが異常燃焼で行方不明になってしまったのです。まるで送り出した赤ちゃんが迷子になって帰ってこなかったような気持ちになったそうです。
今回、歓声が上がったのは、衛星が、軌道まであがったロケットから切り離され、エネルギーを得る太陽電池パネルが開かれ、姿勢が正され、地球の局と交信できるようになった時でした。
「5年前のくやしい経験があったから、本当にうれしかったですね。写真で見たら私が一番泣いていました」。
いつかノーベル賞につながる発見も
今、「すざく」は高度550km の軌道を回りながら、高感度X 線望遠鏡で、今までだれも見たことのなかった宇宙のすがたを観測し、地上に送り続けています。水島さんは「宇宙観測用衛星作りが楽しくてたまらない」といいます。100人以上の人と1つのものを作り上げることも、大好きな宇宙の謎の解明するために、研究者といっしょに考えることも。
「宇宙空間には、様々な『光』が存在します。「すざく」は、星の大集団どうしがぶつかって太陽の何百万倍ものエネルギーを発している様子を撮影し、見えない光が放たれているのをとらえました。また、地球を含ふくむ太陽系が属す銀河系の中心の撮影にも成功しましたし、30億光年先に宇宙最高の3億度の熱をもつ地帯があることも発見しました。重力が強すぎて光さえも出てこられないため『見えない天体』と呼ばれるブラックホールにもせまり、ブラックホール天文学の発展にも貢献しています。これらはどれも『宇宙にある天文台・すざく』だからこそ、できたことです。このように、「すざく」の観測データをもとにした新しい発見が発表されると、自分のことのようにどきどきします。いつかノーベル賞につながるような大発見があるかも、と胸がときめきます」
X線望遠鏡→X線を感知することで宇宙を観測する望遠鏡
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