複雑なシステムを作るために、さまざまな専門家が協力して
人工衛星は、軌道に乗って宇宙を飛びながら、宇宙の観測、気象観測、放送・通信の送受信など重要な仕事をしています。その目的や載(の)せる機器によって、人工衛星の作り方は大きく変わってきます。宇宙観測の場合、望遠鏡など観測機器は研究所で天文学者が作ったり、多くの会社が協力して作ります。NECには人工衛星の本体作りも任されますが、人工衛星の動きについては、非常な精密さが求められます。
「たとえば、飛んでいる人工衛星からある一つの星を撮影し続けるためには、望遠鏡がいつも正確にその星に向いているようにする必要があります。宇宙空間の過酷(かこく)な環境の中で、数百分の1度のブレも許されないからたいへんです。衛星の動作には電力が必要、けれど電力を使うと熱くなる。熱くなるから仕切りの厚さや部屋の形も工夫しなければならない。さらに、電力を得るための太陽電池パネルも大きくなるので、その場所をどう確保するか…課題は次々と出てきます。そのため、機械、熱、電気、通信、姿勢制御(せいぎょ)、システムなど細かく分かれたチームの人が、綿密な打ち合わせをくり返します」
天文学者の「やりたいこと」を実現するために
人工衛星を作るための天文学の先生との打ち合わせや、作った後の検査は、徹底的に行います。最初の1〜2年は、週の半分は研究所に通い、先生とひざをつき合わせて、「何を、どう観測したいのか」要望を聞き、質問し、ときには意見もし、作り方を決め、設計図を描いていきます。先生方の説明は非常に細かく、難しいことも多いので、話だけでなく図を描いて説明してもらうこともしばしばです。
「天文学者の科学的な高い要求を、どう技術で実現化するか、苦労のしどころです」
最初に一回注文を聞いて、それを作っておしまいという仕事ではないのです。3年目、人工衛星がだいたい形になってからは、テストの毎日。いったん宇宙に飛び立ってしまえば直接さわって修理することはできません。ですから完璧(かんぺき)に作っておかなければなりません。地上からの通信だけで思うように仕事をさせるために、打ち上げまで細かい計算とテストを何度も繰り返します。
こうしてできあがったものが、ようやくロケットで打ち上げられます。けれど、人工衛星が宇宙を自分で飛べるようになったからといって、水島さんたちの仕事は終わりではありません。
「地上と通信ができて、太陽電池が開いて、電力も出て、予定通りの星の姿が撮とれているか、ちゃんとデータを送ってきているか、地上から1つ1つ確認します。「すざく」は90分に1回しか日本上空に戻ってこないので、1日5回、それぞれ10分程度の時間を使って確認作業をしました。その作業に1か月程度かけたあと、研究者たちによる本格的な観測が始まるのです」
1日のタイムスケジュール
お仕事豆知識
日本の科学衛星は世界をリードする!
人類初の人工衛星は、1957年に当時のソ連(現在のロシア)が打ち上げたスプートニク1号です。今まで世界各国で約6000個の人工衛星が打ち上げられました。日本の人工衛星は、水島さんが勤めるNECが1970年に打ち上げた「おおすみ」が最初です。
人工衛星の中には、地球の回るスピードと同じ速さで飛ぶため、地上から見るといつも同じ位置にあるものがあります。高い上空から地表や大気のようすを観察したり、地上の施設と電波のやりとりをしたりすることで、さまざまな働きをしています。代表的なものが、天気予報でおなじみの気象衛星「ひまわり」や、テレビのBS放送や、中継車からの映像をテレビ局に送る放送・通信用衛星です。そのほかに、ヒートアイランド現象や南極のオゾンホールなどの観測をしている衛星もあります。このような衛星を実用衛星といいます。
これとは別に、宇宙の起源や構造などを探究するために、宇宙から天体観測などを行っているのが、ここで紹介した科学衛星です。日本は、科学衛星にのせたX線望遠鏡で宇宙の姿を観測する研究分野で、世界をリードしています。
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