一生涯持ち続けられる目標は意外なところに

棚橋 隆彦   慶應義塾大学 名誉教授
電磁熱流体 /研究領域:計算物理、有限要素法、シミュレーション工学 ]

有名なことわざに“少年老い易(やす)く学成り難(がた)し、一寸の光陰軽んずべからず”がある。これは私が中学生の時に習った言葉である。このことわざの重みは、若い時はほとんど感じなかったし、ふだんは忘れていた。しかし、定年退職したいま人生を振り返ってみるとき、この言葉の重みをしみじみと感じる。ある目的に向かって人生を走り続けるとき、“学成り難し”をつくづく感じるものである。また、目的も周りの状況に合わせて時代と共に変化して行く。

もうひとつの名言に“少年よ、大志を抱け”がある。これは若い時期にしっかりした目的を持てと解釈できる。目的が決まると、それに到達するべき最短の経路が決まる。時間を節約して寄り道せず、目的に向かってひたすら進むことができる。この意味で、私の人生は紆余曲折(うよきょくせつ)の多いものであった。そして、あるきっかけが私の人生の方向を決定した。そのきっかけは当然人それぞれ異なる。この大災難がそれになるかも知れない。

災難は多くのことをわれわれに教えてくれる。災難から学ぶことは実に多い。人生の目標は意外なところにある。大切なことは人生の目標を絶えず持ち続け努力することだ。この持続が大きな成功につながる。毎日の小さな謎(なぞ)解きはゲームであり楽しみである。その一生涯の積み重ねが、長い目でみると大きな自信となって人を成長させる。そして、周りの人々が自分を応援していてくれることを実感するものである。好転が好転を呼び、周りの人々が自分の進む道に共感し参加してくれるものである。人一人でできる仕事の大きさは限られている。それぞれの道にすぐれた人々と共に生きることは、楽しいことであり大きな仕事をする原動力になる。大切なのは、“どんな職業でもよいから、一生涯続けてできる仕事をなるべく若い時に早く発見すること”である。

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たなはし・たかひこ/1941年岐阜県生まれ。
私は田舎に生まれて自然が好きだった。多くの不思議なメカニズムが自然の中に隠されている。中学生時代には蝶を追いかけ野山をかけまわった。自然現象は時間と共に刻々と変化している。大学生時代および卒業後の研究生活は、この自然現象をコンピュータの中で再現し自然を理解することが私の楽しみになった。実験は自然現象の再現である。しかし、大地震や大津波は簡単には実験できない。そこで、計算機を使って人工的に大地震や大津波を再現し、そのメカニズムを理解し被害を予測するのである。私の好きな本は福沢諭吉の“学問のすすめ”である。

被災された生徒・先生方へ

今度の東日本大震災は誠に大きな震災である。地震・津波・原発とよくもこれだけの惨事が重なったものだ。毎日のテレビ・新聞ニュースを見てその悲惨さに驚いております。日本だけでなく世界中の人々が皆さんの仲間であることを忘れず復興に頑張ってください。やるせない気持ちはよくわかります。また、その気持ちをどこにぶつけてよいかもわかりません。とにかく、生きる望みを捨てず希望をもって未来を見つめ前進しましょう。

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