最悪事象を想定して建物は限りなく安全に!
竹脇 出 | 京都大学 工学部 建築学科 |
3月11日に発生した東日本大震災では、地震、津波の自然災害に加えて原子力施設の問題が発生しています。1軒の住宅が倒壊しても大きな地域に影響をおよぼすことはありません。しかし原子力施設などに問題が発生すると、今回のように極めて大きな地域あるいは日本全体に影響が及びます。したがって、住宅の設計と原子力施設などの設計は異なる設計思想のもとで行われなければならないのです。実際にこれまでもそのようなことが想定され設計されています。しかし、問題があるとすれば、「最悪の事象」ということが本当に考えられてきたかということです。現在常用されている「想定外」という言葉には大きな違和感を覚えます。
私はこれまで、超高層建物や野球場、サッカー場などの社会的影響が大きな大規模施設などの設計では、この「最悪の事象」を想定すべきであると主張してきましたが、そのようなことは現実的でないという理由であまり取り入れられていません。今こそ、このような設計におけるパラダイム転換が求められていると思います。東京には超高層建物が林立していますが、今回の地震で発生した長周期地震動に対して本当に安全であったかどうかまだ明らかになっていません。
私達が住む建物の建設は経済活動の一環として行われるため、使えるコストには制限があります。したがって、この経済性と安全性をどのようにバランスさせるかが難しい課題であることは確かです。しかし、上記の「最悪の事象」を想定することは必ずしも大きなコストアップにつながるとは限りません。必要な部分は補強し、不要な部分は取り除くことにより全体としてコストはそれほど上昇しない場合が多いのです。このような設計を行うには、建築構造学の知識と数学の手法をたくみに組み合わせることが必要です。私はこのような「最悪の事象」を想定して建物や原子力施設などを限りなく安全に設計する方法についてこれからも研究を続けていくことを誓っています。
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