技術と科学~自然からのいいとこ取りを監視

本川 達雄   東京工業大学 生命理工学部 生命科学科
生物学 /研究領域:棘皮(きょくひ)動物(ナマコやウニ) ]

技術は、人間にとって都合のいいところだけを自然から取り出して、役立てようとするものです。今の暮らしは技術が作り上げたもの。コンピュータもテレビもみんな無くなってしまったら、まったく違った暮らしになってしまうでしょう。食物という自然のめぐみだって、車があるからスーパーに並ぶことができるのです。この技術社会においては、欲望をすぐに満たしてくれる機械をはじめ、人間につごうのいいものばかりに取り囲まれて、私たちは生きているのです。

これは二つの点で危ういと思います。第一に、こんな暮らしをしていると、自然の厳しい顔をついつい忘れてしまいます。海は魚をくれるが、津波もくれる。
技術は、厳しい自然をだましだまし使うものです。完璧(かんぺき)な技術などなく、技術には必ず負の部分が伴っています。原子力は多大なエネルギーを供給してくれるが、一歩間違えると原爆にもなる。だから技術は、おそれとおののきを感じつつ使うものだと思います。殺人者になる可能性を(ほんのわずかでもいいから)意識して、ハンドルを握(にぎ)るべきものでしょう。
第二点。こんな暮らしを続けていると、気づかないうちに、思い上がって勝手気ままにふるまう人間になったり、好きなことだけを効率よく追求する薄っぺらな人間になってしまう恐れがあります。でも、世界はつごうのよいものだけでできているわけではなく、また、すぐに安易に理解できるものだけでもありません。それらとも付き合っていかざるを得ないのが人生です。死は、まさにそういうものの一つです。

技術は、人間にとってつごうのいいところだけを自然から取り出して、役立てようとするものです。それに対して科学は、都合の良し悪しにはこだわらず、自然をじっくり見つめ、自然と付き合っていこうとするものです。技術と上手に付き合うには、やはり基礎的な科学を勉強する必要があるのですね。

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もとかわ・たつお/1948年生まれ。
パンがなければ生きていけませんが、日本は物質的には十分豊かですよね。パンは体を養うもの。脳や心にも、別な形のパンが必要だと考え、脳のパンを作るべく、基礎的な学問の研究者になりました。拙著「ゾウの時間ネズミの時間」は、けっこう良質な脳のパンだと思っています。

被災された生徒・先生方へ

私は若い頃、小さな島で研究していました。実験装置など何もないので自作しないといけない。雨水もためて飲み、台風がくれば1週間の停電、食品の入荷は止まります。でもなんとか、生物としても研究者としても生き延びました。おかげで肝っ玉がすわり、人生へのおびえがなくなりました。貴重な経験です。

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