「虫の目」スタンスと「鳥の目」スタンス

小田中 直樹   東北大学 経済学部
フランス社会経済史 /研究領域:近代フランス社会経済史、歴史理論・歴史学方法論、歴史教育論 ]

ぼくは、仙台で東日本大震災に遭(あ)いました。さいわい自宅も職場も被害が少なかったので、しばらく近所の小学校に設置された避難所のお手伝いをしてすごしました。そのなかで目にした光景をひとつ、紹介します。
小学校の先生がたの本来のしごとは、こどもたちに勉強を教えることです。ですから、なるべくはやく避難所を閉鎖してこどもたちを教室に迎えたいのが本音です。でも避難者さんのなかには、避難所が閉鎖されたら行くあてがない人々がいます。ですから、なるべく長く避難所を残してほしいと思っています。
そんななか、ぼくがお手伝いをしていた小学校では、震災から一週間ほどたって、校長先生が、残っていた避難者さんたちに「避難所の閉鎖」を提案しました。この提案に対して一部の避難者さんは「行き場所がない」として反発し、一触即発ムードになりました。

みなさんがそこにいたら、どうしますか?

まずはどうにかして冷静に話し合ってもらうことが必要です。そのためにはどうすればよいか、なにが出来るのか、その場で&具体的に、いわば「虫の目」スタンスで考えなければなりません。
でも、考えてみれば、校長先生も避難者さんも間違ったことを言っているわけではありません。避難所の役目とはなにか、小学校ではいかなる教育がなされるべきか、といった問題を、あとでもよいから&広く論理的に、いわば「鳥の目」スタンスで考えることも必要です。

そして、忘れてならないのは、「虫の目」スタンスは「鳥の目」スタンスに支えられていなければその場かぎりで終わってしまうということと、「鳥の目」スタンスは「虫の目」スタンスがなければただの空理空論にすぎないということです。二つのスタンスは、どちらか一方だけでは、結局は役に立ちません。

ものごとを具体的な事例に即して考える力と、ものごとの論理を抽象化してつかむ力の双方を身につけること――それが「学問」の目的です。みなさんの未来を支えるのは学問であり、学問の未来を担うのはみなさんです。みなさんに心から期待しています。

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おだなか・なおき/1963年千葉県生まれ。
大学3年のときふと手にとった一冊の本(中木康夫『フランス政治史』)のせいで、この世界に迷いこんでしまいました。それから30年近くたち、歴史を学ぶこと、さらには広く学問することの楽しさを多くの人々に伝えたい――そう思う今日このごろです。

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