生命体のしくみを学んで循環型社会の確立を

大木 理   大阪府立大学 生命環境科学部 植物バイオサイエンス学科
植物病理学 /研究領域:植物ウイルス ]

私が研究している植物ウイルスは直径が1ミリの3万分の1というとても小さな球形粒子で、遺伝子も5つしかもっていません。それなのに、植物が備えている強力な防衛網を突破して感染し、篩管(しかん)を通って植物の中を広がりながら周囲の細胞に次々と移動し、増殖を繰り返してたくさんの子孫をつくることができます。遺伝子から作られるタンパク質も、それぞれがいくつもの働きをもっています。植物ウイルスの生命体としてのしくみは実に巧妙で、効率的に目的を達していく様子を研究していると、毎日びっくりすることの連続です。

大震災と原子力発電所事故という未曾有(みぞう)の災害によって、私たちは安全な食料と安心できる生存環境の大切さを改めて感じたと思います。資源やエネルギーを湯水のように使ってきた20世紀型の生活が、もう立ちゆかないことは明らかです。今こそ社会全体を、循環型で持続できる形へと作り変えなければなりません。

持続型世界というのは、単に我慢するだけの社会ではないはずです。私たちは電力不足の中で、ほの暗い空間の心地よさや家族で集まって過ごすことの大切さを再認識しました。資源やエネルギーを効率的に使い、リサイクルしながら生活することこそ、より人間的で暖かな、次の時代の新しい地球市民の生き方ではないでしょうか。

そのためには、生命体のしくみや機能に謙虚(けんきょ)に学ばなければなりません。それらの原理を人間生活に役立てるため、循環型社会を確立するためには、生命に学び、そのしくみを応用する研究者と技術者が重要です。私たちの食料や生活資材も、植物をはじめとする生物が作っています。これまでの技術では利用できずに捨ててきた廃棄物の中にも、微生物の力によって役立つ物資に変えられる物がたくさんあります。

日本には資源もエネルギーもわずかしかありませんが、優秀な若い人間がたくさんいます。皆さんも生命科学を勉強して、新しい世界の建設に参加しませんか。

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おおき・さとし/1951年神奈川県生まれ。
農作物などに大きな被害をもたらしている植物ウイルス病の克服をめざして、ウイルスが植物に感染して病気を起こすしくみを、光学顕微鏡・電子顕微鏡による観察と分子生物学的な方法の両方を活用して探究しています。趣味は木工、料理など、何かを作ること。著書:大木理「植物と病気」(東京化学同人、1365円、1994年)

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