「ふたたび廃墟に立って」~82歳哲人の追想

木田 元   中央大学 名誉教授
現代哲学

第二次大戦敗戦のとき私は16歳、広島県の江田島にあった海軍兵学校の一年生だった。8月6日に広島への原爆投下を間近で目撃し、10日後に敗戦。父はシベリアに抑留(よくりゅう)され、家族は中国に残留していたので、私は一人で廃墟(はいきょ)となった戦後の日本に旅立ち、闇市(やみいち)で暮らしたり、農業の学校に入ったり、さんざん回り道をしたあげく、ロシアの作家ドストエフスキーに惹(ひ)かれ、結局は大学に入り直して哲学の道をあゆむことになった。

いままた震災後の廃墟の映像を眼にし、82歳になった私にはもうなにもできそうもないが、かつてのあの旅立ちのころのことをまざまざと思い出している。あのころ、これ以上ないほど貧しかったが、なにも欲しくなかった。廃墟に立って、ただ自分が何者なのかを見きわめたいとだけ、烈(はげ)しく思っていたことを覚えている。

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きだ・げん/1928年生まれ。
現象学や存在論を中心に、ハイデガーやメルロ=ポンティら主として現代のドイツやフランスの思想家たちの著作の翻訳(ほんやく)や紹介をしながら、自分の思想を展開しています。

被災された生徒・先生方へ

たまには息切れすることもあるだろうけど、みんな若いんだ、へこたれずに歩いていけ。

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