「何のために学ぶのか」は変な問い?

中井 俊樹   名古屋大学 高等教育研究センター
大学論 /研究領域:大学教授法、学生の学習と発達、大学の組織運営 ]

「何のために学ぶのか」について考えたことはありませんか。「先生にほめられたいから」、「やらないとお母さんに怒られるから」、「まわりもやっているから」のように他人からの評価が気になる人もいるでしょう。また、「自分が目指している職業につきたいから」、「海外で生活してみたいから」、「他人の役にたつ人間になりたいから」のように将来の自分の夢や目的を語る人もいるでしょう。私も高校生だった頃は、東京で一人暮らしをしてみたいという思いが学ぶ動機の一つとなっていました。

さまざまな目的をもって学ぶ人がいますが、学ぶことにはそもそも目的は必要なのでしょうか。「何のために学ぶのか」という問いは、学ぶことをそれとは別の目的を達成するための手段と見なすことを前提としています。学ぶことは本当に何かの手段にすぎないのでしょうか。新しいことを知ることは、ワクワクする気持ちが伴います。全く違うように見えるかもしれませんが、学ぶことは遊びや趣味と似ているのです。遊びや趣味と同様に、学ぶこと自体が目的となりうるのです。

「何のために友達と遊ぶのか」や「何のために音楽を聴くのか」という問いに違和感があるように、「何のために学ぶのか」も変な問いだと言うことができるでしょう。私が所属している大学は、学ぶことの魅力にとりつかれた人が集まる場所です。みなさんより少しだけ年上の大学生の中にも、大学での学びの中で知的探求に目覚め、学ぶこと自体を目的とする知の狩人に変身する人も少なくありません。

今回の大震災の経験を経て、「何のために学ぶのか」について改めて考え直している人もいるでしょう。自分なりの答えが見つからなくても、あせることはありません。学ぶことに必ずしも目的や理由は必要ないからです。そして、多くのみなさんが学ぶこと自体の楽しさに目を向けてほしいと私は思います。

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なかい・としき/1970年三重県生まれ。
大学に関する研究。大学では学生は何を学ぶべきか、そしてどのような環境や条件で学生がよりよく学ぶことができるのかを研究しています。中世にヨーロッパで誕生した大学は他のどの組織とも異なり興味深い組織です。

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