村上春樹・魯迅…越境が育てた東アジア文学を震災で感じた

藤井 省三   東京大学 文学部 中国文学専攻
現代中国語圏の文学と映画 /研究領域:魯迅、中国映画、村上春樹と東アジア ]

東日本地震から3日後の3月14日、私はハイデルベルク大学中国学研究所での講演のため、ドイツへと飛びました。Barbara Mittler教授を始め、欧州の新旧の友人たちからお悔やみと激励の言葉をちょうだいするあいだにも、ホテルでEメールを開くたび、中国・香港・台湾から研究者仲間や作家たちからのお見舞いEメールに接しました。「地球村」という言葉を改めて確信させられたものです。

その中で「先生、ご無事でしょうか?私は毎日、日本のニュースを見ながら、心配しています・・・・」というEメールをくれたのは、「1980年代生まれ(“ポストエイティーズ”)」と呼ばれる村上チルドレン作家でした。私は『村上春樹のなかの中国』という本で、中国語圏における村上文学について詳しく紹介しましたが、中国の若手作家の間では新しい動きが続いています。「現代の魯迅」とも称される韓寒(ハン・ハン、かんかん、1982~)は、『1988』という新作小説を去年9月に刊行しています。執筆途中に村上の『1Q84』が出たため、悩んだ末、既定方針通り『1988』という題名にしたのでした。中国ではタブーとされている1989年天安門事件の影が色濃い作品であるだけに、題名変更は難しかったのでしょう。

そして女性作家のアンニー・パオペイ(Annie Baby)は『大方[玄人(くろうと)という意味]』という華麗な文芸誌を創刊し、昨夏の村上春樹のロング・インタビュー(新潮社『考える人』2010年夏号)中国語訳を掲載しました。郭敬明(クオ・チンミン、かくけいめい、1983~)の代表作『悲しみは逆流して河になる』も講談社から近刊の予定です。

思えばチルドレンの父、村上春樹に影響を与えた中国作家が魯迅(ルーシュン、ろじん、1881~1936)であり、その魯迅も夏目漱石や芥川龍之介の影響を受けている…このように東アジア文学は過去一世紀の間、相互越境を続けており、1999年台湾中部大地震、2008年四川省大地震と災害をも共有しつつ、東アジアは相互理解を深めていくのでしょう。

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ふじい・しょうぞう/1952年東京都生まれ。
魯迅から韓寒までの現代中国作家、台湾フェミニズム文学の李昂、香港の映画監督ウォン・カーウァイ、そして村上春樹や松本清張など日本作家の中国における受容など、東アジア比較文学を研究しています。文学や映画を通じて東アジアの人々の論理と情念を読み取りたいものです。

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