政治学という学問と震災~政治の力が問われる今

山口 二郎   北海道大学 法学部
行政学

大震災はいうまでもなく自然現象であり、人間の力で防ぐことはできない。人は誰しもこの種の災難に遭遇(そうぐう)する危険(リスク)を抱えて生きている。しかし、被災した人間をどのように助けるか、破壊された地域をどのように再建するかは、人間の知恵と力で大きく変わってくる。政治とは、人間が力を合わせて、皆が直面する災(わざわ)いや困難を克服、解決する作業である。そして、政治学とは、どうすればうまく力を合わせて物事を決められるかという問題を考える学問である。

今回の大震災は、人間が常に大きなリスクを背負って生きる、弱い存在であることを思い知らせた。また、原子力発電所の事故は、利益や便利さを追求する政策が巨大なリスクを作り出していたことを顕(あら)わにした。あまつさえ、ある分野の学者は企業や官僚と一緒になって危険な原発を正当化していたことも明らかになった。世の中の仕組み――様々な制度や政策――が、誰によって、何のために作られたかを、独立した視点から解明することも、政治学の課題である。

私はこの十年ほど、リスクをどこまで政治の力でカバーし、どの程度個人の責任に委(ゆだ)ねるべきか、リスクをカバーする政策の仕組みはいかにあるべきかという問題を中心に、現代政治の仕組みを考察してきた。一方に、自己責任を重視する小さな政府という考え方があり、日本人もそれを支持した時期があった。しかし、そうした政治は、人々の生活基盤を掘り崩し、貧困や不平等を広げてきた。2009年に政権交代が起こり、ようやく政治の力によってリスクをカバーし、人間を支える方向に、舵(かじ)を切ろうとしたところだった。

この大震災によって、日本に住む人々が連帯し、生命や人間の尊厳を守ることができるかどうかが問われている。まさに、政治の力が試されているのである。みんなの生命が尊重される社会を作り出すためには、政治の力が不可欠である。だからこそ、今政治学を学ぶことは、未来の日本を構想するために必要である。

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やまぐち・じろう/1958年岡山県生まれ。
現代日本政治の変革の可能性について、アメリカやヨーロッパとの対比で考えてきました。競争原理と利益追求で社会を分断するのではなく、連帯と相互扶助による政治を構想していた時、地震に遭遇し、今まで以上に分かち合いの政治のイメージを具体化しようと思っています。

被災された生徒・先生方へ

被災された方々は、救援策が遅々として進まないことに不安や不満を持っているかもしれません。そこにこそ、政治の貧困が現れるのだろうと思います。今までの日本の世の中の仕組みを点検し、人間の生命と生活を守る政治に転換する時です。皆さんの声が日本のこれからを変えるのですから、何が必要か、何に困っているか、発信し続けてください。

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