国歌の比較社会学~刻まれた歴史と人の思い

髙坂 健次   関西学院大学 社会学部
理論社会学 /研究領域:数理社会学、社会意識論、社会階層論 ]

今日(4月17日)、歌手の長渕剛が「被災地の救援活動で頑張っている自衛隊員を励ます」コンサートを開いた、というニュースをやっていました。どの自衛員も、予期せぬコンサートに感激し、最後は全員が肩を組んで「乾杯」を歌っていました。大震災の後のがれきの撤去(てっきょ)、行方不明者の捜索、放射能被爆(ひばく)の危険をおかしての献身的な救援活動など、自衛隊員の人たちは日頃の疲れもこのコンサートで吹っ飛んだかのように傍目(はため)にも映りました。「乾杯」を唄い終わった長渕剛は、最後に「日、本、万、歳!」と叫びました。でも、なぜ「日本万歳!」なのでしょうか?

「ナショナルなもの」には積極的な面と消極的な面とがある、と言われています。すなわち、グローバル化した時代、<他者>に出会うことによって刺激を受けて自分がそれまでとは異なる自分に生まれ変わっていく場合。他方では、ふだんは意識しない「ニッポン」に触れ、外国人や難民など自分とは異なる存在を結果的に排除する言動に出る場合。

私は、2011年度の春学期は「国歌の比較社会学」というテーマで授業をしています。世界中の国家の「国歌」を比較分析(ときには、ブール代数という数学的手法を用いて)しています。「国歌」(の成り立ちや、歌詞やメロディー)を知ることを通して、その国の歴史が刻まれているし、人々の思いを知ることができます。時には、「国歌」を通してその国から排除されている人々の存在や思いをも知ることができるのです。

グローバル化が指摘される現代にあっては、国家の新しいあり方を模索する議論や「ナショナリズム」についての議論が盛んです。「ナショナリズム」や「ネーション」は、B・アンダーソンという人が言うように「想像の共同体(imagined communities)」ですが、私たちはそれを更に乗り越えて新しく「共同体の再想像(re-imagining the community)」(松田素二)を模索しなければなりません。私は「国歌の比較社会学」を通して、それを模索(もさく)しています。

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こうさか・けんじ/1944年秋田県生まれ。
数学的手法を用いて、人々の「幸福」のあり方、どうすれば人類は幸福になれるかを研究しています。放送大学ラジオ『幸福の社会理論』担当。阪神・淡路大震災以降、「県外避難者」等の問題についての研究もあります。

被災された生徒・先生方へ

「災い転じて福となす」という諺があります。私自身、阪神・淡路大震災の被災者の一人ですが、それをきっかけに社会学研究の視野も広がりました。厄災にくじけずに、「負の経験」を「プラスの経験」に転化してください。

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