科学の知識は皆に必要~社会のために勉強を

岡村 浩   工学院大学 名誉教授
物理学 /研究領域:素粒子論、一般相対論の高次近似、マッハ原理 ]

今回の大地震に当たって工学院大学では緊急講座を開催した。第一の講演は放射能の初歩から話し始めて、自然界に日常的に存在する放射線量と、原発事故によって増大する放射線量を比較した。放射能の許容量についての正しい知識を身につけることができる。第二の講演は原子炉に関するもので、今回の福島第一原発に何がおこったか、これからどうなるかについてのその時点での最新の知識を提供するものであった。講演内容 はhttp://www.kogakuinuniv-ext.jp/news/42.html で見ることができる。科学を愛する市民、研究者等500人の参加者が熱心に聴講(ちょうこう)し討論(とうろん)に参加した。

それに並行して私は物理学を学んだ者の責任として、仲間や先輩と共に今回の事故について学んだ。チェルノブィリでは事故そのものが隠蔽(いんぺい)されたが、今回は経済産業省原子力安全・保安院から毎日データが発表される。そのうち、プラント関連データを一つの画面にまとめることによって事故の様子をかなり知ることができた。

この段階で感じたことは、これらの問題について科学の知識が重要であることであった。放射能を浴びることの危険性について、必要でない放射能は避けねばならないが、ゆっくり浴びるときにどのように身を処するかを判断するためには医学と物理学の知識、および確率の考え方が必要である。原子炉について研究する場合も同様であった。日本国民全体が、そのような科学的な情報の処理方法に日頃から慣れ親しんでいくべきだと思う。

受験生諸君、今君たちは大学合格を目指して勉強を続けている。勉強は続けなさい。君が自分の才能を活かすためには最もふさわしい大学がどこかにあるはずである。ただし大学入学が決まったらそれでよしとしないでほしい。震災の前までは勉強は自分のためにするものだった。震災後の今は勉強することの意味がまったく異なってきた。君達は社会のために勉強しなければならない。大きな志をもってほしい。利権のための勉強をしてはならない。ことは自然科学だけではない。問題は東北の復興だけではない。君たちの将来は君たちが決める。その気概(きがい)を胸に秘めて、今は勉強に励むこと、それがこの国を維持する道である。

先生の研究室や活動を知りたい人はこちら
岡村浩のホームページ
http://www.ns.kogakuin.ac.jp/~ft92043/index-j.html

先生への感想・質問がある場合はこちら
※◎を@に変更してメールをお送りください。
okamura◎cc.kogakuin.ac.jp

本人写真

おかむら・ひろし/1941年福岡県生まれ。
数学か物理か決めずに入学したが友人の影響で物理を選んだ。東京での学生生活を満喫した。趣味:読書,テニス,合唱,物理。著訳書いろいろ。力学Ⅰ(丸善:近刊)は高校生にも読んでほしい。

被災された生徒・先生方へ

謹んで亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。被災された方々のご健康と,一日も早い復興をお祈り申し上げます。

本サイトは、経済産業省のキャリア教育事業の一環で作成した「わくわくキャッチ!」の独自コーナーとして、河合塾が作成し、運営しています。
Copyright(c)2011 Wakuwaku-catch.All Rights Reserved.
河合塾河合塾