最近、研究が発展した結果,以前なら互いに関係がないと思われていた研究が互いに強く関連していることが明らかになってきました。
ひとつの例をとってみましょう。
ここ数年、経済学で人を使った実験をすることが盛んになってきました。以前には、人はいつも自分の経済利得を最大にする行動をとるのだと考えられてきました。ところが実験をするとそうでないことが分かります。人々は、嫉妬(しっと)心や公正さを求める心、皆のために尽くしたいという希望、そしてそうしない他人に対する怒りといった道徳感情によって動かされています。そのため人々は目先の損得ではなく、「何が正しい行いか」を考えて振る舞うのです。
このような道徳感情の基盤が分かるのではないかと考えて、多くの心理学者や経済学者が人間の脳の活動を調べています。
ところで、このような道徳感情は人々が互いに協力できるような心の仕組みといえます。それは人間が社会的動物として進化してきた結果作られたものです。そのため進化生物学の理論に説明が求められています。また協力は、乱獲や汚染を防ぐといった環境問題にも深く関連しています。一昨年にノーベル経済学賞を受賞したオストラムさんは、いろいろな民族で、魚や森林の利用について協力し合う制度ができていることを示しました。
人の心を知る心理学、社会の規範や経済を知る社会科学、乱獲や森林伐採、汚染などの環境問題の解決、そして脳活動を調べる医学、生物の進化を考える生物学、そしてそれらに共通の理論的基礎を解明する数学など、さまざまな分野は互いに緊密に関連しています。最先端の研究では、理系とか文系といった区別、医学と数学といった区別があまり重要でなくなってきているのです。
皆さんが学校で学ぶすべての科目は互いに関連しています。どの科目も皆さんが知りたいこと、本当に理解したいことにつながっているのです。