脳科学的「想定外」、そして医師志望者に望むこと
飛松 省三 | 九州大学 大学院医学研究院基礎医学部門 臨床神経生理学分野 |
私は九州大学医学部を卒業後、神経内科(脳・神経・筋肉の異常を診(み)る)を専攻しました。誘発脳波(脳の伝達時間を測定)を使って、神経の病気の画像に現れない機能異常を研究しました。アメリカ留学後は、臨床神経生理で、脳の研究を続けています。
今度の東日本大地震は1000年に1回の規模であり、想定外の大きさであったと言われていますが、本当にそうなのでしょうか。脳は外界からの情報を取捨選択し、ヒトに合目的な行動を取らせます。注意を向けなくても、時々刻々変化する情報を入手しています。脳科学的に想定外ということは、単に判断材料となる情報を入手していなかっただけであり、それは思い込みにほかなりません。震災の復旧に向けて種々のプロジェクトが走り出していますが、その初期設定には判断を誤らせない正確な情報収集が必要で、それが脳の想定外を無くすことになります。
研究者として、心がけているのは、「自分が興味をもったことはとことん突き詰める」、「効率のよい研究法はなく、失敗は成功につながる」です。神経内科時代の恩師は、「Keep Pioneering」が信条でした。未開の荒野に踏み出して、先駆者(せんくしゃ)として研究を維持(いじ)し続けることは、大変な事です。どの分野に進んでも、その気概をもって頑張って欲しいと思います。
医学は「病気を治す学問」ですが、「死を看取(みと)る学問」でもあります。治療した患者さんが元気になることは、医師の無上の喜びですが、死に至ったときは辛(つら)いものです。この震災をきっかけに医師を志す方もおられるでしょう。ぜひ、他者の苦しみを慮(おもんばか)る優しさをもって下さい。それに加え、医師は治療するときには最善の治療法を選択できる幅広い知識が求められます。一生、勉強し続けなければなりません。私が学生のときに比べて、覚えるべき知識が指数関数的に増えています。まさに医学は継続の学問であり、それを続けられる強い意志が求められます。
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