「人間の安全保障」こそ重要と痛感!
山影 進 | 東京大学 教養学部 |
「人間の安全保障」という言葉を聞いたことがありますか?
これは1990年代初めに登場した言葉で、国家による安全保障が領土の防衛に偏重(へんちょう)しているので、地域社会(共同体)に生きる個々人の生命[健康]・尊厳(そんげん)[人権]・生活[平穏]を国際的に守ることを重視しようという立場から使われるようになりました。日本政府も1990年代末から外交の柱として注目するようになり、途上国支援の理念のひとつに掲(かか)げるようになりました。東京大学の大学院でも2004年に「人間の安全保障」プログラムを立ち上げ、今では関連する講義(たとえば平和構築論)を学部の1年生向けに開講しています。
人間の安全保障を脅(おびや)かす脅威(きょうい)は多種多様ですが、感染症や自然災害も含まれます。災害は社会全体に襲いかかり、個々人を区別したりしないのですが、いったん起これば社会的な弱者に大きな犠牲(ぎせい)や負担を強いるのは明らかです。上記の2004年という年は、12月にスマトラ沖地震が発生し、各地の沿岸を津波が襲いました。このような事態はまさに人間の安全保障の課題であり、日本からも多くの支援の手が差し伸べられました。プログラム関係者も人道支援や調査に関わりました。
この例のように、人間の安全保障は海外の問題が中心で、日本は支援・協力する側にいると思い込んできました。つい最近(2011年3月)までは。
科学技術立国を標榜(ひょうぼう)してきた日本ですが、日本国内での人間の安全保障を追求する努力が足りなかったことが歴然としました。地震の起こるメカニズムの理解も津波に対する防災対策も原子力発電所の設計も不十分でした。もちろん科学技術は万能ではありませんが、今回のような苦く辛い経験から教訓を学び、新しい知見と技術を生み出して、社会や個々人を脅威から守る努力をいっそう払う必要があります。文系にも理工系にも細分化されたさまざまな学問分野がありますが、人間の安全保障の観点に立って学び、研究することの重要性を改めて感じています。
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