過去の思想を学ぶのは未来を切り開くため

小島 毅   東京大学 文学部 思想文化学科
中国思想史 /研究領域:東アジア、儒教、王権 ]

ヨーロッパで育まれた近代科学の世界観にもとづく西洋文明は、19世紀には世界全体に広がります。それにともなって、ヨーロッパ以外の地域にあった世界観の体系は、迷信や偏見として斥(しりぞ)けられてきました。今でも、私たちは西洋文明の大きな恩恵を受けて暮らしています。しかし、科学は万能ではありません。科学に対する過信は、それ自体が“迷信”であり、“偏見”にすぎません。

現代文明のなかで生活しつつ、過去のさまざまな文明の思想を知ることによって、私たちは自分たちの物の見方や考え方を見つめ直すことができます。私が研究対象としている儒教は、中国北部で生まれて東アジア全域に広がり、西洋文明とは異なる世界観を持っていました。その内容を信じて蘇(よみがえ)らせるという目的ではなく、自分たちの常識と比較し近代科学を相対化するために、私は儒教を研究しています。

たとえば、儒教には天人相関思想と呼ばれる考え方があります。自然界のさまざまな異常現象(“天変地異”といわれるもの)は、人間界の出来事と呼応して生じるという発想です。最も強調されたところでは、「政治家が不適格者だと、罰として自然災害が起こる」という理論があります。これを根拠に、君主や大臣への批判が行われ、政変につながることも稀(まれ)ではありませんでした。この発想は、近代科学の観点からすれば迷信です。しかし、当時の人たちはこうした世界観を持つことによって、自然界と人間界とを結びつけてとらえ、自分たちの指針としていたのです。

私たちは最近、抗するすべのない自然の猛威(もうい)を目の当たりにしました。また、化学反応を人工的に制御(せいぎょ)する装置に支障が生じた場合の危険性を体験してしまいました。それは不幸なことですけれども、科学技術をより良きものに向上させていくために、今こそ過去の思想からいろいろと学ぶべきではないでしょうか。若いみなさんに、日本という国の将来の命運がかかっているのです。

本人写真

こじま・つよし/1962年京都府生まれ。
中学時代から歴史が好きでした。ただ、それは人名や年代の暗記がおもしろいからではなく、昔の人がどんなことを考えていたか知りたかったからです。いま思想史を学ぶことの意味については、私が書いた『父が子に語る日本史』(トランスビュー社から刊行)をお読みください。

被災された生徒・先生方へ

地震や津波は防ぎようのない天災ですが、私たちの科学技術に対する過信がその被害を大規模に、かつ長期化させてしまいました。このことの重みは、被災地のみなさんだけでなく、私たち全員が深く反省していくべきことです。でも、だからこそ、この苦い経験をバネにして、科学についてきちんと勉強してほしいですし、先生がたもそうした指導をしていただきたいと思います。

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