方丈記への共感がカオス研究、脳への興味に

津田 一郎   北海道大学 電子科学研究所
数理科学 /研究領域:複雑系、カオス力学系、脳科学 ]

私の専門のカオスや複雑系は物理学、数学、生物学、化学、地学の接する所で生まれた学問です。カオスというのはほんの少しのずれがどんどん拡大されていくという性質を持っています。このことにより、将来の振る舞いの正確な予測ができなくなります。数学や物理学は現象を厳密に記述し、予測し、確認する方法を持ち、それゆえに精密科学といわれています。数学を使えば、予測が不可能だということさえ証明可能になります。

そして、社会はこれらの学問に支えられて発展してきました。しかし他方で、自然には因果関係が複雑に入り組んでいるために、私たちがいまだに十分には理解できない現象がたくさんあります。生命現象、宇宙や地球の変動はそのようなものです。その中で私は、特に脳の中の現象に興味を持ち、カオスの数学を使って研究しています。やっと思考や記憶の成り立ちがほんの少しだけ分かってきましたが、まだまだ努力を続けなければなりません。

私は昔から「本来あるべきところからちょっとずれる」ものや、「常に変化し続けてとどまるところがない」ものに興味がありました。具体的には、エピキュロスの原子論、荘子の混沌、スピノザの汎神論(はんしんろん)、鴨長明の方丈記などに共感を覚えてきました。このような興味や共感が私のカオス研究の大きな動機になりました。そして、カオスを研究するうちに「不可能性を含んだ実在」としての脳の働きに興味を持つようになったのです。

このような研究を通じて、自然は人間よりもはるかに偉大で、自然の前では人間は謙虚でなければならないということを私は深く学びました。しかし、他方で人間は自身の不可能性の限界に向かって挑戦し続けることができるということも学んだのです。自然の真理を追及する純粋な心は時に例えば原爆製造といった悪魔的なものに加担する心とも通じます。だからこそ、科学を学ぶすべての人間は科学とは別の倫理観をもつように努めなければならないのだと思います。

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つだ・いちろう/1953年岡山県生まれ。
小さいころから数学や自然現象が好きでした。高校で物理に興味を持ち多くの本を読みましたが、なかでも「物理の散歩道」(ロゲルギストエッセイ)に夢中になりました。また友人と数学同好会を作りました。物理や数学を一生懸命勉強しているうちに興味が具体的になり、今の専門へ行き着きました。趣味はクロスカントリースキーとトレイルランです。

被災された生徒・先生方へ

私の実家は何度も水害に見舞われました。阪神淡路大震災のときは多くの友人や親戚が被災しました。今回の東日本大震災では、津波堆積物調査による過去の大津波の範囲と今回の大津波による被災地域が一部の地域でほぼ一致していたということを、私の勤める大学の専門家の先生から聞きました。調査結果が防災に生かされなかった無念さをその先生は市民の前で話しました。福島第一原発にしても多くの専門家が早くから警鐘を鳴らしていたことが知られています。いくら学問が発達しても天災を防ぐことは不可能でしょう。しかし、組織をきちんと作り上げることでそれを人災に至らしめないようにすることは可能です。学問で得た知恵を暮らしに、町づくりに生かすことができるかどうかに日本の未来はかかっているのです。確実なことは、未来は皆さん一人一人の手の中にあるということです。一度、寺田寅彦を読んでみてください。

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