自問自答=学問の方法~熱電変換効率向上をめざして~

中津川 博   横浜国立大学 理工学部 機械工学・材料系学科
物性物理学 /研究領域:熱電変換材料、温度差発電、ペルチェ冷却 ]

東日本大震災が残した爪痕(つめあと)は、1ヶ月を経ても行方不明者1万人という数字が物語るように深く、未曾有(みぞう)の自然災害に日々不安を抑えることができない気持ちに駆られることが多いでしょう。福島第一原子力発電所で発生した事故は未だに収束する気配も見えず、このような危うい社会システムを構築した大人に疑念を抱く毎日だと思います。しかし、もしそのような疑問が心の中で湧(わ)き上がってきたら、ぜひ、自分と対話して欲しいと思います。自問自答して欲しいと思います。実はそれが本当の学問の方法論だからです。

私は物性物理学を専門に研究している大学の一研究者です。熱力学第二法則によれば、何も無い所からエネルギーを得ることも、エネルギーを捨てずにエネルギーを得ることもできないことを良く理解できます。当たり前のことですが、変換効率30%の熱機関であれば、70%の熱を捨てないとエネルギーを得ることができないのです。原発も変換効率100%の熱機関ではないし、炉(ろ)内の熱を取り除くのに難儀を極めているのは周知の事実です。このような変換効率向上社会の実現が、研究の使命だと信じ日々研究・教育活動をしています。

学問の方法論については、国学者本居宣長(1738-1801)が「うひ山ぶみ」という文章で、『詮(せん)ずるところ学問は、ただ年月長く倦(う)まずおこたらずして、はげみつとむるぞ肝要』だと明確に述べています。要するに、日々コツコツ精進が大切であるという至極(しごく)常識的なことです。例えば、先生に質問されて皆がいる前で意見を述べることのできる人は少ないですが、皆試験はよくでき、先生もそうした傾向を称賛します。しかし、後者はrhetoric、前者はdialogue、つまり、話術は人を説得するに過ぎないが、対話は自分自身の記憶を精神の力で呼び覚ましながら展開されるので、対話には智慧(ちえ)が生まれるのだとも教えてくれています。過去の偉い人々の声に真摯(しんし)に耳を傾けると、自ずと進むべき道が見えてくると思います。

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なかつがわ・ひろし/1969年神奈川県生まれ。
物性物理学を基礎にして、酸化物やシリコン半導体などの物性を実験的・計算的手法を用いて研究。最近では主に熱を電気に直接変換する熱電変換材料の物性研究をしています。ある材料に電流を流すと、電流に比例した吸熱と放熱が生じ、吸熱側で(ペルチェ)冷却が可能です。例えば、ホテルの冷蔵庫などは、電子が熱を運ぶので静かなため、この冷却が使われています。

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