司法的正義、教育、被害者支援~広がる司法の仕事

前野 育三   関西学院大学 名誉教授
刑事政策 /研究領域:少年法、犯罪者の社会復帰、犯罪被害者 ]

自分が有罪だと信じる被告人を有罪にするために証拠を改ざんした検察官がいた。拾った財布を届けなかったと信じる被疑者に罪を認めさせるために脅(おど)し文句を用いて責め立てた刑事がいた。相手の言い分を聴く心をもたず、ウソだと決め付ける。これらの人は、自分の直感を簡単に確信に作り変えてしまう人たちなのだろう。

直感を確信に高めるには、客観的証拠が必要である。客観的証拠を求めるのではなく、認めない相手が悪いと決め付ける。権力の座にある人がこの種の行為を行うことがいかに危険なことか。しかし現実にはこれらの行為は繰り返されている。どのような制度的保障があれば、このような行為を防止することができるのだろうか。刑事司法はこのような問題と取り組んでいる。

証拠に基づいて公平な判断をする裁判所を作ることは、司法の最重要課題であり、もっとも基盤的な課題である。冤罪(えんざい)に苦しむ人を作らす、また、手続きの過程での人権侵害をなくす課題と言ってよい。しかし、それだけでは十分ではない。犯罪を行った人が更生し、非行のある少年が健全に成長できるよう援助することも、司法の役割である。

家庭裁判所では、非行のある少年の健全育成のために、環境調整や教育の仕事が行われている。このような社会問題解決型の司法を少年非行の分野だけでなく、たとえば、薬物使用の習癖のある人にも広げる試みが行われている。薬物依存者を犯罪人と見る前に病気ととらえ、厳しい治療プログラムを受けて課題を達成できた人には、刑罰を科さないで済ませるという考え方である。こうして社会問題解決への司法の役割は増していく。

近年では、犯罪被害者への配慮という仕事が司法に加わってきた。犯罪被害者の精神的苦しみを和(やわ)らげるとともに、経済的苦境から救済する課題である。

司法の仕事には新しい側面がつねに加わり、仕事の幅は広がっている。社会的要請が変化するからである。最も基盤的な手続的正義を貫きつつ、新しい社会的要請に応えること。これを学問的にバックアップする作業は魅惑的である。

先生への感想・質問がある場合はこちら
※◎を@に変更してメールをお送りください。
maaeeno◎gaia.eonet.ne.jp

まえの・いくぞう/1937年兵庫県生まれ。
犯罪者の更生や非行少年の健全育成の研究。一見今回の大震災とは関係のない研究のように見える。しかし、震災後の補償や復旧を含めて、あらゆる社会問題の解決には公平と公平感が伴わなければならない。司法的正義の追求は、問題解決の基盤の追求である。

被災された生徒・先生方へ

悲しみの中でも将来への希望があればこそ人は生きられる。学問は、将来への希望をつなぐ助けになるものでありたい。1000年に一度といわれる大災害を経験したいまこそ、知ることの喜びを深めたいと思います。阪神淡路大震災を経験した地から。

本サイトは、経済産業省のキャリア教育事業の一環で作成した「わくわくキャッチ!」の独自コーナーとして、河合塾が作成し、運営しています。
Copyright(c)2011 Wakuwaku-catch.All Rights Reserved.
河合塾河合塾