君たちの前に未知があり、君たちの後に道ができる

續 輝久   九州大学 医学部 医学科、生命科学科
分子遺伝学、放射線生物学 /研究領域:ゲノム医科学、活性酸素、遺伝子改変マウス ]

3・11に発生した東日本大震災という、第二次世界大戦・太平洋戦争以降に我が国が直面する未曾有(みぞう)の危機的な状況にある中、「疾風(しっぷう)に勁草(けいそう)を知る(逆境は人間の本当の値打ちをあらわにする)」という後漢書の言葉が思い浮かぶ。皆さんに、私の留学時代の恩師のことを紹介しようと思う。

2007年12月。この年のノーベル医学・生理学賞は、「マウスの胚性幹細胞を使って特定の遺伝子を改変する原理の発見」に貢献した英米の3名の研究者に授与された。受賞決定を報じた時事通信社の記事は、受賞者の一人である米国ユタ大学教授のMario R. Capecchi博士について、「路上生活孤児からノーベル賞学者へ」と博士の生い立ちを紹介した。

私は1988年から1992年に至る4年間、Capecchi博士の研究室に留学して、マウスの初期発生での形態形成に関わる遺伝子の機能の解析に従事した。その時に感じたことであるが、幼少時の極めて困難な生活状況を克服して移住先の米国で研究者となった背景もあったのであろう、「しっかりと考えた上で重要であると思うことを、決して諦(あきら)めずに取り組む」という強い姿勢がある。1953年にDNAの2重らせん構造モデルを提唱し、後にノーベル賞を受賞したJames D.Watson博士は、Capecchi博士の大学院時代の師匠であるが、あるテレビ局のインタビュー番組で「決して流行に惑(まど)わされず、物事をしっかりと考えて、何が本質で重要であるのかをよく理解している」と、博士のことを紹介していた。

再生医療の研究でも注目されているES(胚性幹)細胞をマウスの系ではじめて樹立することに成功した英国のMartin J. Evans博士、注目している遺伝子にのみ変異を導入する方法を互いに独立して開発したCapecchi博士とOliver Smithies博士、共にノーベル賞を受賞した3名の研究者は、新しい学問の扉を開くパイオニアとして、いずれも研究の初期においては、極めて厳しい環境の中で孤独と困難を克服して偉業を達成している。このことは、3名揃って2001年にラスカー賞を受賞した際に、学術誌に連報で掲載された各自のエッセイ風の寄稿に詳しい(※)。「Never give up!—不可能なことはない」という強い信念をもってどこまで取り組むことができるのか—未知の世界に挑戦する若者へのメッセージだと思う。

(※)Evans M.J., Nature Medicine, 7: 1081-1083 (2001)
Smithies O., Nature Medicine, 7: 1083-1086 (2001)
Capecchi M.R., Nature Medicine, 7: 1086-1090 (2001)

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つづき・てるひさ/1951年福岡県生まれ。
小学校高学年の頃から、北里柴三郎、ローベルト・コッホ(ドイツ)、ルイ・パスツール(フランス)等の細菌学者に憧れ、基礎医学系の研究者になることを目指してきた。大学院の後半以降、遺伝性疾患に関する研究に従事し、留学をきっかけに疾患モデルとしての遺伝子改変マウスを樹立することを学び、遺伝情報を維持する仕組みについての様々な遺伝子改変マウスを作って、特に発がん抑制の分子機構についての研究を進めている。趣味は書道。

被災された生徒・先生方へ

今回の震災で福島県を中心とした多くの被災者の方達が、放射線被ばくに対してとても不安に思っておられ、関連する領域の研究者として、放射線を理解して「正しく怖がる」ことにつながる情報発信の必要性を痛感している。
興味がある方は下記の日本放射線影響学会のウェブサイトのトップページにある「福島原発Q&A」を参照してください。
[http://wwwsoc.nii.ac.jp/jrr/index.html]

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