ミネルヴァの梟(ふくろう) ~学者の役割、実務家の役割

山地 憲治   東京大学 名誉教授
エネルギーシステム工学

私の研究対象はエネルギーシステムです。エネルギーシステムはエネルギー資源から変換、輸送、消費に至るエネルギーの流れでつながるネットワークです。エネルギー変換や輸送の問題は技術に関することが多いのですが、資源確保は国際政治の影響が大きい問題ですし、エネルギー消費は経済や生活と強いつながりがあります。私は数理モデルでエネルギー・環境問題に関する技術や制度・政策を評価する研究をしてきましたが、エネルギーシステムの研究には自然科学や技術に関する理科系の知識に加えて経済や社会に関する文科系の知識も含めた総合的な学問が必要だと思っています。

今回の東日本大震災、特に津波が引起した福島原子力事故に対して、エネルギーシステムの研究者として何ができるのか、自分の役割を改めて問われていると感じています。

私は理系と文系の学問を統合した「エネルギー学」の形成を目指してきましたが、まだ達成できていません。そもそも、エネルギー政策決定における学問の役割も明確ではありません。ドイツの哲学者ヘーゲルの言葉ですが、「ミネルヴァの梟(ふくろう)は夕闇(ゆうやみ)になって飛翔する」という警句があります。ミネルヴァは学問の女神で、その梟とは学者のこと、夕闇に飛翔するというのは、事態が収束してから行動を開始するということです。

私は今この警句の意味をかみしめています。現実から逃げるための言い訳ではありませんが、自然科学(とその直接的な応用としての工学)の場合と異なり、エネルギー政策や震災復興のような人間社会の問題については、学問は後からその解釈をするという役割が重要です。学問によって得られた知見を実社会に応用することは、結果に責任を取れる実務家の役割ではないかと考えています。

悔(くや)しい気持ちはありますし、緊急の対応に知恵を出し惜しむことはありませんが、学問の基本的役割は原理原則の論理的道筋を明らかにすることと考えています。

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やまじ・けんじ/1950年香川県生まれ。
国民の信頼を失った原子力の再評価を含め、エネルギー政策を考えています。
地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長

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