あなたが発見する薬が、人類に幸福をもたらすことに

岡島 史和   群馬大学 生体調節研究所 生体情報部門
生理化学 /研究領域:薬理学、内分泌学 ]

東日本大震災、巨大津波、原発の放射能漏(も)れは、いずれも想像を絶するものです。特に福島原発の事故は平和利用といえども、科学技術を過信し謙虚さを失うと、原子力は兵器と同じであることを実証しました。しかし、ここで科学技術の進歩を止めても良いのでしょうか?電気、自動車、通信のない世界に後戻りできますか?資源の乏しい日本が世界で生き続けるために科学技術の必要性は自明です。

私は、ホルモンなどの研究を通して薬に関わる研究をしています。人間は生まれた時から、老い、病気にかかり、死に至るのは必然です。まさしく、致死率100%です。現在、がん、心臓や脳梗塞(のうこうそく)などの病気で3人中2人は亡くなります。100年前の日本人の平均寿命は45歳前後です。この寿命の延びは、ワクチンやペニシリンなどの抗生物質の開発によるところが大きいのです。ただ、今後は寿命をのばすことより、いかに有意義な人生をおくれるかが重要になるでしょう。子供、働き盛りの大人が病気で亡くなるのは悲しいことで、そのために薬が必要なのです。

私自身も15年ほど前にがんを患(わずら)いましたが、九死に一生を得ました。医学の進歩のおかげです。しかし、薬を過信し、謙虚さを失った例が薬害です。薬によって生体をコントロールできるという過信を捨て、薬は生体のほんの一部の機能をコントロールしているという謙虚さがあれば、薬害を防ぐことは可能です。

科学技術が人類を破滅か幸福に導くかは、現在に生きる人、特に若い人の力によっています。科学の進歩はその時代、時代の絶え間ない研究の積み重ねが大きな発見につながったのであり、決して、ジェンナー、フレミングという天才だけで作られたものではありません。若いあなたも大きな発見の機会にめぐり会うことができます。だから、科学は面白いのです。ただ、それが大発見かどうかの知識は必要です。過信を捨て、謙虚な気持ちで夢を追い続けてください。あなたの発見が将来、人類に幸福をもたらす事を信じて。

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おかじま・ふみかず/1950年北海道生まれ。
ホルモンなどの生理活性物質が細胞や生体に作用する時にどのようなメカニズムで応答するのかを研究しています。その応答系の破綻(はたん)が病気です。したがって、その応答系をコントロールする薬は病気の治療に役立つと考えています。

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