学者は悲惨な災害に接しても情緒的反応に終わらない

榊原 清則   法政大学 大学院イノベーション・マネジメント研究科
経営学(組織論・戦略論) /研究領域:研究開発管理論、技術経営論、イノベーション論、科学技術政策論 ]

私は経営学者である。組織としての企業の経営現象を研究し、そして教育している。トピック的には、企業のイノベーション・マネジメントに関心がある。
アカデミアとしての私の仕事は、先行研究を参照しつつ、独自要素を持った仮説を立てて、データに突き合せ、仮説が成り立つと思ったら論文を書いて発表する、というものだ。日常的には、日がな一日机に向かっていることが多く、外から見ると何が楽しいのかと思われそうだ。事実、家内にはいつもそう言われている。

しかし、好奇心ベースで、勝手に自分が言いたいことを言い、書きたいことを書くのが私の仕事であり、もちろんそこにはエビデンス(証拠)が必要だが、やっていてこれほど楽しい仕事はないと自分では思っている。私の場合、研究成果の多くは、残念ながらすぐに役立つといったものではない。その点は申し訳なく思っているが、長期的視点で見るならば、実務直結型の議論より私の議論のほうに、有用な洞察が多いと秘(ひそ)かに信じている。

今回の災害との関連では、日本の原発技術が不十分だとする指摘に今、研究上の好奇心を持っている。日本はGEやフランスの原発技術など、欧米先進技術を導入し、それにキャッチアップして原発を建ててきたが、しかし地震国・日本のためにはいつまでも借り物の技術だけではダメであって、独自技術をその上に構築しなければならなかったのに、なぜかそれを怠(おこた)った結果、今日の事態を招いた――。これはまだラフ・アイデアに過ぎないけれど、できればいずれ時間をかけて調べてみたい仮説のひとつである。

悲惨な災害に接しても、情緒的に反応するだけでなく、そこに興味ある仮説候補を見いだし、自分の研究への展開を考える。学者というのは、つくづく身勝手な存在だと自分でも思うのだが、その習性は治りそうにない。

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さかきばら・きよのり/1949年生まれ。
産業社会の持続可能な成長を中心的に担う営利、非営利の組織体すなわち企業の研究。特に日本企業との関連で、どういうイノベーションがおこなわれ、その成果がどういう形で、どこに帰属しているかに関心を持っている。

被災された生徒・先生方へ

一見平凡で安寧な毎日の繰り返し。そんな日常生活に皆様が一日も早く戻れるよう、祈っています。

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