映画は無力か~人が人らしく生きる社会に芸術は不可欠

寺脇 研   京都造形芸術大学
映画をめぐる評論 /研究領域:制度論、文化論 ]

「こんなときに映画を作っていていいんでしょうか?」大震災直後、映画学科の学生たちから出た言葉です。被災地の状況を思って居ても立ってもいられない気持からでしょう。

日がたつにつれ、「災害を前にして映画は無力だと感じる」との声が聞かれます。芸術は無力だ、とはあらゆる芸術分野に共通して存在する焦燥感ではないでしょうか。たしかに、映画など芸術には津波を防ぐ力も、被災地の復旧に当たる力も、復興の建設作業を進める力もありません。それらの仕事に身を挺(てい)して従事する人々の姿を目にするにつけ、無力だと焦るのも無理はないかもしれません。

しかし、それはあまりにも大きな災害に直面したための動揺なのだと思います。芸術には、それらの現実的な仕事とは別にかけがえのない力があります。それは、人々の想像力や感情を刺激し人間の感性を豊かにしたり、創造性を高めたり、生きることのすばらしさを認識させたりする力です。

映像、セリフ、音楽などを通して視覚や聴覚に訴え、喜怒哀楽に満ちた人間ドラマを見せる芸術である映画は、その力を最も発揮させやすい分野ではないでしょうか。いい映画を観たときに、笑ったり涙を流したりするあの気持を思い出してください。

これから、震災後にどんな社会を新しく作り出すかを皆で考えていくとき、感性や創造性や生きることのすばらしさを前提にしなければ、単なる経済的な復興策しか浮かんできません。都市計画や産業復興も「必要条件」ではありますが、それで幸福の「十分条件」とは言えません。ただ衣食住が保障されるだけでなく、人間が人間らしく心豊かに生きていける社会を構想するためには、芸術の力が欠かせないのです。

わたしの勤める京都造形芸術大学は、従来から「芸術立国」を謳(うた)い「芸術こそが世界平和を作る」と信じて芸術学習の場を作っています。大げさ? 戦争も災害と同じです。心の豊かさが生まれない限り戦争の惨禍(さんか)をなくすことはできません。映画に限らず、芸術で世の中の何を変えることができるか、考えてみませんか?それが、芸術を学ぶということです。

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てらわき・けん/1952年生まれ。
高校時代から映画評論を書いてきた映画評論家です。ただ、大学卒業後文部省(現・文部科学省)に勤務し、教育行政や文化行政を担当した経験から、映画と社会とのつながりを重視しています。映画が社会の問題を解決することに役立ったり、国際関係をよりよいものにして平和を作っていく力を持っていることを知ってほしいと思っています。今年度からは映画学科だけでなく、新設のマンガ学科の学生たちにも映画や漫画の力を伝えます。
大学でのブログ http://chayamanga.net/ 
個人で高校生のために書いているブログ http://www.mammo.tv/column/ken_terawaki/

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