薬の副作用も解明する臨床薬理学への招待

山本 康次郎   群馬大学 医学部 医学科
臨床薬物動態学 /研究領域:副作用、薬物間相互作用、薬理遺伝学 ]

ヒトの身体のさまざまな組織は、神経系、内分泌系、免疫系のネットワークによりお互いに情報を交換しています。薬はこの情報伝達系に作用して身体の状態を変化させます。薬が生体に及ぼす作用を明らかにするのが「薬理学」と呼ばれる分野です。

情報伝達を担う生体機能分子と薬の分子は化学の原理に従って反応するので、同一条件では同じ結果が得られるはずです。しかし、患者に薬を投与した場合、十分な効果が得られない人もいれば、副作用が現れる人もいます。このような個人差の原因を解明し、一人ひとりにとって有効で安全な薬物療法を行う方法を確立するのが「臨床薬理学」です。

薬は生体にとって不必要な異物なので、生体の防御(ぼうぎょ)機構によって体内への侵入を妨げられています。同じ量の薬を投与しても、防御機構が強い人と弱い人では体内に入る薬物量が大きく異なり、効き目にも差が出ます。他の病気などで身体が弱っていたり、複数の薬を同時に使っていたりすると、薬に対する防御機能は大きな影響を受けるので、薬の量を調節するなどの工夫が必要です。最近では、生まれつき薬の副作用を起こしやすい人を遺伝子解析によって見分けることも可能になっています。例えば、血栓症の予防に用いられるワルファリンという薬では、CYP2C9とVKORという2つの遺伝子の型によって効き目が異なることが明らかにされ、遺伝子解析を行って投与量を決めることが推奨されています。

安全に使える新しい医薬品を開発することも臨床薬理学の役割です。薬理作用がある化学物質のヒトへの適用方法と投与量を決め、有効性と安全性の試験を行い、医薬品として世に送り出します。臨床で使用されるようになってからも、治療効果や副作用の情報を解析して、より適正な使用法を探索します。これらの試験や調査は厳密なルールに則って行わなければなりません。新しい薬を創り、適正に使えるよう薬を育てる、それが臨床薬理学の役割です。

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やまもと・こうじろう/1961年生まれ。
生体内での薬物の動きと分布を明らかにする薬物動態学の理論に基づいて、医薬品による副作用を回避する方法を研究しています。最初の被害者が発生する前に警告を発し、未然に回避することが目標です。

被災された生徒・先生方へ

被災された皆様方に謹んでお見舞い申し上げます。二度とこのような被害が起こらないよう、今後十分な対策が実施されることを祈念します。医薬品の副作用被害も、犠牲者が発生してから対策が講じられることが多いのですが、最初の犠牲者を防ぐ方法を確立するのが我々の目標です。安心安全な社会のために力を合わせましょう。

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