3月11日の午後3時近く、三浦半島の先端近くにある東京大学の三崎臨海実験所にいた私は、大きく長く揺れる異様な地震に、20年近く前の奥尻島の沖で起きた北海道南西沖地震を思い出していた。その時は札幌にいたのだが、今回の揺れはそれより大きく長かった。これはたいへんな事が起きた、30 mの大津波、と思う間もなく停電になった。携帯では、大津波警報が出たことが伝えられていた。幸い、実験所周辺の海岸は、大津波には襲われなかったが、ホヤやウミシダの飼育筏(いかだ)が大きな損害を受けた。
三崎ですらそうなのだから、三陸から福島にかけての沿岸の生態系は、図り知れないダメージを受けたに違いない。黒潮と親潮がぶつかるこの海域では、春先にスプリングブルームと呼ばれるプランクトンの大発生が起きる。それが豊富な水産資源を支えている。北日本を襲った巨大津波は、このスプリングブルームの出鼻をくじいてしまったと考えられる。それに加えて、原発による沿岸の放射能汚染である。
ヨウ素を含む甲状腺ホルモンは、稚魚やウニ、ホヤなどの幼生の発生に関わる。私は20年余りサケの回遊を研究してきたので、川から海に降りたばかりのサケの稚魚が大津波でどうなったか気になっていた。かろうじて生き残った稚魚が、福島沖から黒潮に乗って三陸沿岸まで運ばれた放射性のヨウ素の影響を受けないかも気になっている。
大震災からの復興では、被災した方々の生活の立て直しに続き、健全な沿岸の資源の再生が重要な課題となる。とは言っても、復興を急ぐ余りに、目先の利益を追い、自然に悪影響を与えてきた多くの生産活動と同じ間違いは繰り返して欲しくない。生物の多様性に配慮した、できれば20年先を見た計画を進めて欲しいと願っている。そこでは、海を知り生物を知る若い力が求められている。そういった若者に、三陸沿岸の生態系がどう回復していくか見守っていって欲しいと強く願っている。