中学高校の勉強は、生涯学習の基礎

前原 和寿   元 東京工芸大学
数学 /研究領域:代数幾何学、代数多様体の双有理分類 ]

私の両親は空襲を避けて東京から疎開し、私は戦後間もない長野県の安曇野で生まれました。当時は馬の蹄鉄(ていてつ)をうつ鍛冶場(かじば)があったり、木炭車が走ったりしている時代でした。

中学のとき、町には3軒しか本屋がなく、好奇心から微分積分の薄い大学受験参考書(理系の本があること自体奇跡的)を手に入れましたが、問題に対し学生の解答例とその直しが赤ペン入りで書いてあるような奇妙なものでした。この本では機械的な解法しかわからず、なぜ・どうしてという疑問にこたえてはくれず面白くありませんでした。その後、松本に出かけたとき分厚い微分積分の入門書を買って読むと、微分積分がわかった気がして、内心得意で数学に自信が持てるようになりました。
高校に入ってから、一般の3次方程式の解法があることを知り、自分で3次と4次方程式の一般の解を時間と手間をかけて求めることができたときは感激しました。

このような中学・高校で扱わないようなことに対し、独力で何日も悪戦苦闘したことで、大学での勉強やその後の研究において数学の理論が皮膚感覚で直感的にわかるようになりました。また、若い時に何か具体的な数学の問題とよく遊んで、一つのことに没頭する経験を持っておくことで、数学の研究者となったときに、研究対象と何年でもともに過ごす「孤独」を楽しめるようになります。

そうした問題と遊ぶためには、良い指導者に教えを請うことが一番ですが、適切な出会いがないような場合には、一人で本と向き合うことが必要でしょう。
独力で中学・高校のときに読むものは、知的好奇心を刺激されるような内容が豊富な厚めの本で、しかも深い内容にまで導くものがよいでしょう。

以上は数学のことについて書きましたが、どんな学問も楽しんで深みにはまっていくと、それが習い、性になり、いつも離れがたい相手となるでしょう。みなさんも好きな学問にのめりこんで、一生の「遊び相手」をつくりましょう。

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本人写真

まえはら・かずひさ/1946年長野県生まれ。
大学で伯父に買ってもらったリーマン全集がきっかけで、代数幾何学の研究をするようになりました。代数幾何学とは、多変数の多項式の零点の軌跡を研究する学問で、応用を目指しません。こうした学問をなんのためにするかとたびたび聞かれますが、追及しても極まることのない深遠な内容があり、達成感は何物にも代え難いものです。

被災された生徒・先生方へ

太平洋戦争の後の荒廃した東京で、学問や芸術に没頭する中学生・高校生がいました。生活が苦しいとき、余裕がないときだからこそ、没頭できるものを求めるところに人間性の不思議なところがあり、崇高なことだとさえ思います。
震災からの復興には人類の財産である知識と教養が不可欠です。生活の確保も難しい状況だと思いますが、学問に対する熱意を失わないでください。

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