研究室を飛び出し、放射線被ばくについて情報発信中

田内 広   茨城大学 理学部 生物科学領域
放射線生物学 /研究領域:発がん、放射線影響、DNA損傷修復 ]

放射線に被ばくすると、遺伝子の本体であるDNAに損傷(化学的な変化)が起きます。実は、DNAの損傷は、酸素呼吸や細胞の増殖過程など、通常の生命活動でも起こっています。もし、これらの損傷が放置されれば、発がんや細胞の致死など、様々な健康障害の原因となりますが、私たちの身体には、少数のDNA損傷は、ほぼ全て修復する能力が備わっています。生物がDNA損傷を修復する機構を明らかにすることは、がんの予防や治療の改良といった、医学応用も展開できる大きな可能性を秘めています。

私は、「放射線に被ばくした生物に何が起きるのか」、「その現象がなぜ起きるのか」といったことを追求する、「放射線生物学」の研究をしてきました。中でも、DNAの損傷を元どおりに治す、「相同組換え修復」と呼ばれる機構を制御(せいぎょ)するタンパク質に注目し、遺伝子組換えなどの手法を駆使(くし)してその機能を解析しています。

茨城県水戸市にある私の研究室も、震災によって多くの研究試料を失い、研究は後戻りして足踏み状態が続いています。そんな中で、間もなく福島第一原発事故が起きました。知名度の低い学問分野ですが、正しい情報が届かないために多くの皆さんが混乱されている状況を目の当たりにし、すぐに研究室を出て、科学的・客観的に判断してもらうために行動を起こしました。今も、所属学会の対応メンバーとして、放射線の影響に関する市民の皆さんからの質問などに科学的見地から答える活動を続けています。

科学は、それを学ぶ者の単なる満足の道具にとどまっていてはいけないと思っています。華々しい成果を上げて世の中を変えることだけが科学の目的ではありません。たとえわずかでも、学び、追求したことを世の中に還元できる機会があれば、そのために行動してこそ、存在価値が出るはずです。学問は、厳しい状況下であっても、正しい知識・経験に裏付けられた最善の判断をするための道具なのですから。

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たうち・ひろし/1962年広島県生まれ。
放射線に被ばくした生物が遺伝子損傷を修復する仕組みの研究。がん放射線治療に応用する研究も展開しています。実は、学生時代は植物学や微生物学を専攻していました。就職した研究所の関係で放射線と基礎医学の道に入り、分野が大きく変わりましたが、学生時代の研究や部活などの経験は十分に役立っています。

被災された生徒・先生方へ

今回の震災で、人生は何が起きるかわからないとあらためて痛感しました。どんな瞬間にも自分で納得できるよう、視野を広げ、判断に必要な知識や経験を身につけることを心に留めてもらえると嬉しいです。そこに学問・学習の意義があるはずです。

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