349年目に解明されたミジンコの謎~環境が動物の性を左右する

井口 泰泉   自然科学研究機構 基礎生物学研究所 岡崎統合バイオサイエンスセンター
内分泌学 /研究領域:環境化学物質の動物への発生影響、ホルモン受容体の進化、ホルモンの不可逆化作用 ]

温度や化学物質などの環境からの影響が動物に対してどのような影響を及ぼしているのかを、ミジンコや魚、カエル、ワニやマウスなどを用いて研究しています。1つだけ紹介してみます。

ヒトはY染色体にある1つの遺伝子が働くと精巣ができ、この遺伝子が無いと卵巣ができる、遺伝子による性決定(遺伝性性決定)を行います。ミジンコは環境が良ければメスがメスを産んで増えますが(単為生殖)、餌不足や短日、混雑などの環境の悪化を感じて、オスになる卵を産み(環境性性決定)、オスはメスと交尾して乾燥にも耐えられる耐久卵を産みます。この耐久卵からはメスが生まれます。ミジンコは藻(そう)類を食べて増え、魚の餌(えさ)となり、食物連鎖の中間に位置して生態系を維持する重要な動物です。

ミジンコは1662年にすでに描かれています。私たちはオオミジンコ(体長5ミリ)を用いてオスを産む仕組みの研究を行っています。10年ほど前、偶然に、ペットのダニやノミの駆除(くじょ)剤がごく微量水に溶け込むと、オオミジンコが産む卵は全てオスになることを見つけました。つまり、オスとメスを産み分けさせることができます。この薬は昆虫やエビやカニの幼若ホルモンの構造を変えたものです。オスになる卵とメスになる卵での遺伝子の働きを調べ、オスになるには1つの遺伝子の働きが必要で、この遺伝子の働きを止めるとメスになることを明らかにしました。この研究から、環境が悪くなると母親の体内からでた幼若ホルモンが卵に働き、卵の中でこの遺伝子が働くことでオスになると考えられます。ミジンコが描かれてから349年目にしてオスを産む仕組みが、2011年3月に解明できました。ミジンコが増えるためにも環境は大切です。

このような時期にこそ、落ち着いて基礎的な知識をしっかり身につけて、将来への飛躍の足掛かりとすることが必要です。多くの疑問が皆さんの身近に未解決で残っています。何事も粘り強く、また基礎的な研究も目指してください。

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いぐち・たいせん/1951年岡山県生まれ。
ホルモン作用を持つ化学物質(内分泌かく乱物質・環境ホルモン)の発生中の動物への影響、アメリカワニやオオミジンコを用いた環境依存性の性決定の仕組み、およびホルモン受容体の進化の研究をしています。環境からの影響がどのような仕組みで動物の発生や発達に影響を及ぼすのかを明らかにしたいと思っています。総合研究大学院大学 生命科学研究科 基礎生物学専攻教授

被災された生徒・先生方へ

4-5月のパリでの経済協力開発機構(OECD)の会議、コペンハーゲンでの世界保健機関(WHO)の会議では、参加された各国の研究者や行政官から多くのお悔やみと励ましの言葉とともに、被災された方々への研究室の提供の話もありました。世界は強いきずなでつながっています。

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