文学は、苦しみと悲しみの中から人生の高みを目指す
舌津 智之 | 立教大学 文学部 文学科英米文学専修 |
アメリカのブルース音楽などを聴くと感じることですが、本当に美しい歌や物語というのは、人生の喜びに由来するものではありません。それは、苦しみから出発し、けれどもその苦悩を希望に変える力を持っています。そして、苦悩とは、希望と同じく普遍(ふへん)的であり、人はみな、苦しみや悲しみによって互いにつながれています。
そうした歌や物語について考える人文学とは、人生の目的を探求する学問です。一方、他のあらゆる学問は、人生の手段を探求するものです。むろん、科学技術が進歩すれば人間の生活は便利になるし、より良い法律ができれば社会は安定します。化学も医学も政治学も、それぞれに尊い学問です。しかし、テレビや車のない時代は、今より不幸な時代だったのでしょうか?人生の目的とは、秩序正しい社会を作ることでしょうか?もしも便利で安定した社会が実現したら、我々はどこへ向かえばよいのでしょう?あるいは、不便と不安定をもたらす災害や不幸に直面したら、人は、何を支えにその逆境を乗り越えればよいのでしょう?その「どこか」や「何か」を考えることが、(人)文学研究にほかなりません。
アメリカの文学者ソローは、その著書『森の生活』の中で、「人生の本質だけと向きあって生きたい」と語りました。しかし彼は、社会に背を向けた仙人だったわけではありません。ソローが唱えた非暴力の思想は、ガンディーやキング牧師の政治実践にも影響を与えました。文学や芸術が教えてくれるものは、まさに、人間の本質です。人生という山の裾野(すその)を見すえるのが他の学問であるとすれば、中心の山頂を見極めるのが人文学です。
おそらく今、多くの十代のみなさんは、自分の目指すべき学問や仕事とは何かを決めかねていることでしょう。けれども、文学の学びとは、未来が見えず、迷い苦しみながら、なおかつ人生の核心を想うすべての人たちに開かれています。
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