AI[人工知能]からIA[知能増幅]へ、人の社会生活の支援へ

山口 高平   慶應義塾大学 理工学部 管理工学科
人工知能 /研究領域:Webインテリジェンス、オントロジー、知能ロボット ]

最近、メディアにAI(Artificial Intelligence、人工知能)がよく取り上げられています。以下、2つの話題について説明しましょう。

一つ目は日本の話題から。2010年10月、将棋の世界で、AIがプロ棋士(きし)に挑戦しました。このAIシステムは「あから」と呼ばれます。10の224乗が「阿伽羅」であり、将棋の指(さ)し手の組み合わせに相当します。膨大(ぼうだい)な数ですね。「あから」は、4つの将棋プログラムの合議制により、指し手を決めていきます。一方、「あから」の対戦を受けたのは、清水女流王将でした。対戦は中盤までほぼ互角でしたが、「あから」が王手を打たれそうな場面において、その王手を防ぐのではなく、プロ棋士さえも予想できなかった意表をつく手を指し、「あから」が勝利しました。

二つ目は米国の話題から。ジェパディという人気クイズ番組があります。ジェパディは40年以上続いている長寿クイズ番組ですが、過去問と同じ問題はいっさい出題されません。また、ジャンルは多種多様ですので、平均的米国人ではもはや解答は困難とされています。2011年2月、このジェパディで、AIコンピュータ「ワトソン」が人間のグランドチャンピオンに挑戦しました。対戦は3日間続き、1日目は互角でしたが、最終的にワトソンが勝利をおさめました。ワトソンはなぜ勝利できたのでしょうか?それは、画期的なAI技術が発明されたからではなく、多くの既存AI技術をうまく組合せ、研究者同士が議論に議論を重ね、個々のAI技術を改良していった、チームワークにより成された勝利といえます。

このようなAIについて、ある新聞のコラムでは、「今世紀半ばには、AIは人に代わって、知的労働をこなす予測もある。面白(おもしろ)さの後を、怖さがついてくる」という悲観的なコメントが掲載されました。このようなコメントは、インターネットが登場した時にも、同様に掲載されました。確かに、インターネットの登場により、コンピュータウィルスなど、影の部分が生み出されました。しかしながら、インターネットによって、社会生活の利便性は大きく向上し、インターネットは、既に一つの社会基盤にまで発展してきています。人間社会がイノベーションと安心して付き合える方法を探求する姿勢が大事だと思います。

AIの未来はどうでしょうか?AIが人にとって替わるというような悲観論ではなく、人・組織・社会との関わりを考えながら、人の社会生活を支援するAI、いわばIA(Intelligence Amplifier、人の知能増幅)が多面的に考察されるべきかと思います。2年前、映画「サマーウォーズ」がヒットしました。最後の場面は、手に汗握るシーンの連続でしたね。インターネット上の仮想世界「OZ」を占領して社会生活を混乱させるAIラブマシーンではなく、ラブマシーンに敢然と挑戦する主人公を支援できるようなIAを目指したいですね。

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本人写真

やまぐち・たかひら/1957年大阪府生まれ。
大学時代、AI(人工知能)という言葉の響きに魅せられ、ずっとこの道を歩んできました。学生時代は、幅広くは勉強せず、興味を持った事だけ徹底的に考えていましたが、今もその生活が続き、探求心の薄い学生の発表には、ついつい辛口コメントになってしまいます。今まで平時のAIばかりでしたので、大震災を機に、今後は、非常時のAIにも取り組んでいきたいと思います。

被災された生徒・先生方へ

多くの学協会が東北で予定していた集会を中止するなか、人工知能学会は、6/1-3、盛岡市で、全国大会を予定通り開催し、500人以上の参加が見込まれています。大会開催中、AIが復興支援に少しでもお役に立つにはどうすればいいかなど、徹底的に議論する予定です。まだまだ大変な生活が続くかと思いますが、できる限り応援したいと思っています。

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