走り続けること~気がつけば新しい世界に〜

堀越 正美   東京大学 分子細胞生物学研究所
分子生物学 /研究領域:遺伝子の発現制御(せいぎょ)機構 ]

私は中学生の時に数学の美しさにあこがれ、数学者になって世界中の人と数学の話がしたいと学問の道を選びました。大学生になって「自分の今の実力では第一線の数学者にはなれないだろう」と判断し、苦渋(くじゅう)の決断でしたが数学者になることをあきらめました。そして、自然科学者への道を歩み始め、大学院終了後、福島県が生んだ野口英世が大活躍したロックフェラー大学(当時はロックフェラー医学研究所、現在は大学院生1学年25名の大学院大学)で8年間に及ぶ研究生活を送りました。

生命の根源である遺伝子制御の研究を続け、世界中の科学者と創造性を競ってきました。「眠ることもなく働き続ける日本人がいる」と広まり、国際学術会議で初めて出会うヨーロッパの科学者にも強烈な印象を与えていることを知りました。そのかいあって、専門とする研究分野に新しい局面をもたらし、世界の研究をリードすることができました。誰も挑まなかった研究領域を切り開いた「spiritual leader」だと競争相手に言われた時の喜びは、今でも忘れることはできません。新しい原理の発見や概念の構築に向かって、全身全霊を打ち込んで研究成果を生み出していく私の姿が、論文や講演を通して日本の若い研究者に夢と希望を与えているという稀有(けう)な経験もしました。それは中学生の時に全く想像もしなかったことです。

私は、「遺伝子の情報が取り出される仕組みを知りたい」、「自然の持つ美しい姿に触れたい」と真摯(しんし)に思い、厳しい科学競争社会の中で先入観や偏見を持たず、また権威や権力に屈することなく、研究を進めただけでした。その過程で、頂上からの眺(なが)めは美しいけれど、そこに至るまでには過酷な厳しさがあることを知りました。そして、研究に取り組む私から「真剣に挑む」ことや「決して諦(あきら)めない」ことを学んだ学生が生まれたことから、若い人へのメッセージとして「スーパーサイエンスハイスクール講義」(2009、培風館)という本も生まれました。

人生は一度しかありません。本気になれることを何か見つけてただただ「走り続けること」を伝えたいと思っています。

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ほりこし・まさみ/1956年群馬県生まれ。
細胞の維持や分化を担(にな)う遺伝子を制御する仕組みの研究。遺伝子の情報に従ってRNAやタンパク質が作られ、生物の最も基本的な単位である細胞の生きている状態が保たれています。またある細胞が別の種類の細胞に分化するのも遺伝子の情報に従っています。どの遺伝子の情報がいつ、どのように読み取られるのか、に関する様々な仕組みを研究しています。

被災された生徒・先生方へ

まず前を向いて一歩ずつ歩を踏み出して下さい。一日に一歩、一年で365歩前に進むことになります。そこに何かがなされているはずです。自然と自信が湧(わ)いてきます。妨げるものを避けて歩けば、自信はつきません。一歩ずつ前に進む、妨げるものを乗り越えて進む、その積み重ねが、そのままその人が歩んだ道だと思います。何度となく科学者として歩むことをやめようかと思いながらも、自分自身と戦い続けてきた人生だと考えている私からのメッセージです。

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