東日本大震災、とくに福島原発事故は、あらためて私たちがどんな情報を信頼すればいいかという問題を問いかけた。「原発は安全だ」と電力会社や過去の政府から再三発信され続けるなかで、多くの人たちはそれを「正しい情報」「唯一の情報」と信じていた。しかし事故後の報道では、今回の事故や危険を予測させる「ほかの情報」が実はあったということが知られるようになった。
人は生活をしていくなかで、いろんな情報を頼りにしている。周りの人たちも信頼しているからきっと正しいのだろう、としていることが多い。でもテレビや新聞などで流され、多くの人が信じているもののなかで、調べてみると実は疑わしい、ということも少なくない。
例えば、私の専門の若者の進路問題でもそうだ。フリーターやニートが増えた(ニートが本当に増えたかは疑わしい)なかで、いまの若者の働く意欲が前の世代よりも低いということがしばしばいわれてきた。その証拠として「七五三」現象がよく例にあげられる。卒業後3年間で中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が初めの仕事をやめている、最近の若者はすぐやめてしまう、というものだ。確かに高卒で正社員就職した人の4~5割が3年以内にやめている。
でも過去はどうだったのだろうか? このデータは調べると70年代からあるが、この40年ほどほぼ一貫して40~50パーセントの間で、増えてはいない。むしろ一番新しい数字はそのなかでもほとんど最低だ。いろいろ調べても、確かな数字で確認できる限り、若者の働く意欲は過去とほとんど変わらないというデータはあっても、低下したというデータは見当たらない。
学問の重要な役割は、「常識」とされていることを疑ってみることだ。いろいろな情報を調べ、自分が「これは確かだ」と思えるものを見つけ出してくる。このことは研究者ばかりでなく、生きていくために誰もが必要なことだろう。