学びの原点は「疑問に感じ、自ら考えて行動し理解する」

奥村 康   順天堂大学 医学部 免疫学講座
免疫学 /研究領域:リンパ球機能分子の研究、細胞傷害機序の解明、免疫寛容の研究 ]

現代における医学教育の大きな役割は「考える力を育てる」ことにあると思います。私の専門とする免疫学は、感染症や癌(がん)、膠原病(こうげんびょう)・自己免疫疾患(しっかん)、アレルギー、臓器移植など様々な病気に関わっており、多くの医療の場でその知識が必要になります。

多くの大学の免疫学教室には内科、外科に限らず、眼科、耳鼻咽喉(いんこう)科、産婦人科、小児科など、様々な領域の診療に携わる医師が訪れ、それぞれが専門とする病気の治療方法の開発や発症メカニズムを明らかにするため昼夜を問わず実験・研究を行っています。時間を作っては自ら勉強や研究を行い、病を克服しようと試みる志の高い医師は多くいます。

一方で、自らが接している病気や薬をどれほど理解しているのか疑問に感じる医師も中にはいます。学生時代に一度は免疫学を学んだはずが、その内容や詳細についてはほとんど覚えていないのが現実のようであり、一から免疫を勉強し直す必要に迫られています。実務に追われ業務にどう対応していくかを学ぶことで満足している医師も少なくないように思えます。研究者や製薬会社が病気のメカニズムや治療方法を考えれば良いのではなく、やはり患者さんや病気に直接接する医師が、基礎的な観点から病を克服する気持ちを持つことが医学において最も重要な事だと思います。医師国家試験も暗記型から思考型へとシフトしている今日、「疑問に感じ、自ら考えて行動(調べる・人に聞く等)し理解する」これが学びの原点ではないでしょうか。

近年の20〜30代の方は最初から天職を見つけ出そうとする傾向があるように思いますが、現実、初めからこの仕事が天職だったと思い、仕事を続けられてきた方はそう多くないのではないでしょうか。初めから医師を目指そうとする医学生でさえ、卒業後にどの科に進むか判断する場面では悩むものです。好奇心から選択した科で修行し、業務をこなしているうちにいつのまにか専門家になってしまったという人も多いと思います。ですから、まず単純に興味を持った事や物に、より知りたいと思いを抱くところから始めてみてはいかがでしょうか。

掘り下げていった結果、途中で興味を失っても良いのです。また新たに始めれば。このような経験は生きていく上で決して無駄(むだ)になることはありません。ただ異なる状況や時間から得た情報や経験をただ点として記憶しておくのではなく、常に自分の興味と照らし合わせ、結びつけ、大きな柱にしていくことが重要だと考えます。「疑問に感じ、自ら考えて行動し理解する」将来に向けて大いに役立てて欲しいと思います。

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本人写真

おくむら・こう/1942年島根県生まれ。
1969年 千葉大学医学部 卒業
1973年 千葉大学大学院博士課程 修了
      千葉大学医学部病理学 助手
1974年 米国スタンフォード大学
1978年 東京大学医学部血清学 助手
1980年 東京大学医学部免疫学 講師
1984年 順天堂大学医学部免疫学 教授
2008年 順天堂大学医学部免疫学
      特任教授・名誉教授

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