SAVE IBARAKI~機能停止の大学で学生が起こした奇跡
土井 隆義 | 筑波大学 社会・国際学群 社会学類 社会学主専攻 |
東日本巨大地震に襲われたとき、私は大学の研究室で仕事中でした。生まれて初めて経験する凄(すさ)まじい揺れが収まり、改めて周囲を見渡してみると、その直前とはまったく異なった光景が眼前に広がっていました。倒れかかった書棚が軋(きし)んで唸(うな)りを上げ、足の踏み場もなく床一面に本や書類が散乱していたのです。大学はしばらく機能停止に陥(おちい)り、3月末の卒業式は中止に、4月の入学式も延期になりました。
しかし、そんな被災下でもすばやい行動を見せた学生たちと、その能力の高さに私は舌を巻きました。互いの安否を確認するためのサイトをネット上に自ら立ち上げ、助け合う体勢をすぐさま整えてくれたのです。私たち教員にとっても、それは学生たちの安否情報を素早く収集するための大きな助けとなりました。なかには一般の被災者が情報を共有するためのサイトを作り、地域住民に提供してくれた学生たちもいました。
「SAVE IBARAKI」と名付けられたそのサイトの利用者は、大学がある茨城県を越えて、近県へと広がっていきました。彼ら学生たちのすばやい対応のおかげで、どれだけ多くの市民が助けられたことでしょう。こういった動きは、その他の被災地でも、またその圏外でも、数多く見受けられました。彼ら若者たちの善意のきめ細やかさと、それに裏打ちされた活動力には、本当に脱帽(だつぼう)の思いです。
はるかに被害の深刻な現場に立った人々は、「言葉を失った」と口々に語ります。でも、こんな若者たちを目の前にして、私は言葉の底力も同時に感じるのです。言葉は、人の命を救うことはできませんが、人の心を救うことはできるからです。時間と空間の制約を超えて人々をつなげてくれるネット上の情報も、多くは言葉から成り立っています。これまでの日常性が断ち切られた現在の日本で、私たちは新たな言葉をどのように構築していくべきなのか。社会学の知見も、きっとその一助になるだろうと私は確信しています。
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