学びは他人との競争ではない~歯車を中心に日本を牽引

林 輝   東京工業大学 名誉教授
歯車工学 /研究領域:機械計測、振動工学、マイクロメカニズム ]

中学1年の1945年夏、終戦になった。学校の教育方針も大和魂(やまとだましい)から自由・平等に急変し、将来の希望も軍人以外のものに考え直すことになった。学業成績の順位付けも、平等の行き過ぎで廃止された。クラブ活動の奨励に乗って生物クラブ、化学クラブ、数学クラブなどに熱中した。中学、高校と連続した6年間、こんな学校生活の良い時代であった。

高校最後の1951年頃はようやく肥料化学工業が始まり、日本の工業化のきざしが表れた。私は担任の先生の勧めで東工大に1年浪人後入学した。遊ぶ余裕も無い貧困は、学業に集中するには幸いであった。当時、東工大はすべての学科目を自由に選択できる学科なしの制度で、350名の同学年生は皆、顔見知りになり4名の生涯の親友もできた。私は機械コースに進んだ。4年生からの卒業研究は応募者の少ない歯車の研究室に入った。ここで、恩師の故・中田孝先生と出会えたのは、一生涯の幸運であった。

就職に出遅れ、助手として研究室に残った。やがて、造船ブームで舶用大形歯車の性能向上の国家大形プロジェクト研究が始まり、その一環として大形歯車の精度測定の研究を担当し学位も取得した。その後、助教授、教授となり多数の学生達と様々な研究をすることができた。バブル経済の最中1972年頃に始めたマイクロメカニズムの研究は多数の大企業の支援を受け、微小なロボットの試作、コンテストの開催などマイクロマシンの幕開けとなった。2003年に二つ目の大学の定年後、幾つかの企業で歯車に関する問題解決の手伝いを続けている。

学ぶことは自分自身を充実させるためのもので、他人との競争をすべきものではない。多くのことを学ぶのも必要であるが、十分時間をかけて理解を深めることもさらに大切である。また、壁に突き当たったときには、あせらず思考を継続してゆくと、何かの機会に急に道が開かれることも何度か経験してきた。情報化の進んだ今日では大学に頼らず学ぶこともできるが、大学はこれからの永い人生のため役立つ多くの知識や貴重な人脈が能率よく得られる場であるので、出遅れることがあっても進学することを強くお薦(すす)めしたい。

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はやし・てる/1932年千葉県生まれ。
1970年頃まで大形船舶用のタービン減速歯車の研究で日本をこの分野の後進国から最先進国にする一端を担(にな)った。造船衰退後は付加価値の高い微小な機械を目指しマイクロメカニズム開発の研究を始めた。微小領域で作業をするマイクロロボットの端緒となった。現在は精密機械メーカー数社で技術顧問として問題解決の手助けをしている。

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