海からのエネルギーを使うために~専門知識も総合性も

吉田 宏一郎   東京大学 名誉教授
海洋構造工学 /研究領域:海洋資源・エネルギーの開発、海洋空間の利用のための構造工学 ]

筆者は海洋構造工学を専門としており、今回の東日本大震災の地震と津波による防波堤をはじめとする各種海岸構造物の甚大(じんだい)な被害に深い関心を持っている。また、地震国である我が国においては、電力の確保を原子力発電に依存することは大きなリスクを伴うことが明確になった。風力、太陽光、バイオマス、地熱、潮海流、波力、水力などの自然エネルギー資源を利用した発電を推進すべきである。これに関係する技術の一つが、例えば海上風あるいは海流が有するエネルギーを機械エネルギーへ、さらに電気エネルギーへ変換する装置を海洋において安全に支持し、機能の維持を可能にする海洋構造物技術である。

上記は筆者に関連した、専門分野の一例であるが、学問には極めて多くの専門分野がある。諸君が知的な好奇心を持つ限り、必ず、自分の好きな専門分野が見つけられるであろう。そして熱心に学べば職業につながり、人生の大半の時間を掛ける価値があると感じられるようになるであろう。

一方、付け加えたい事がある。それは、狭く深い専門分野を学ぶと同時に、総合的なテーマについて学ぶことにも本気で取り組んでもらいたいことである。理系の専門分野を学ぶ諸君には、哲学、歴史、社会思想など広い視野を育み、人間性を豊かにする分野を学ぶことを薦めたい。また、文系の専門の諸君には、物理学や化学の考え方、自然の仕組みなど、法律、経済とは異なる価値観が支配する世界があることを常に意識することが望ましい。

大学によっては、このような学習法を必修にしているが、一般に、総合的なテーマは専門分野ほど真剣に取り組まれない。しかし、筆者は自らの体験から、人生の後半において、これらの総合的なテーマの重みは次第に増してくるものであることを実感している。

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よしだ・こういちろう/1938年愛知県生まれ。
国土は狭いが、利用できる海域は広い日本にとって必要な、新しい技術を仕事にしたくて、この分野を手掛けるようになった。

被災された生徒・先生方へ

私は沖合海洋の利用・開発に関わる技術の研究に従事してきました。このたびの東北地方太平洋沿岸の地震・津波による大災害につきましては、堤防や港湾の惨状に大きな心の悼(いた)みを感じます。人間は自然によって生かされているわけですが、だからと言って畏(おそ)れ過ぎず、甘え過ぎず、冷静に見つめて対応して行くものと思います。

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