悲しみを力に。天災に立ち向かう学問を作ろう

速水 敏彦   名古屋大学 大学院教育発達科学研究科 心理発達科学専攻
教育心理学 /研究領域:動機づけ、若者の心理 ]

先日、震災で遅れた始業式で、校長先生が「君たちの今の悲しみや苦しみを力にかえてがんばろう」というようなことを生徒に語りかけておられる姿をテレビで共感して見ていました。私は教育心理学者で、これまで主に人のやる気(動機づけ)について研究をしてきましたが、実は最近考えていることはこの校長先生の言葉と大いに関係があります。

それは悲しみや苦しみ等のネガティブ感情が、どのような条件下でやる気を高めるのかを明らかにすることです。そして、これまでの心理学の理論に従えば、ネガティブな感情は人に無力感などをもたらし、望ましい行動を導くとは考えられていません。しかし、私は自分の努力を信じ将来をまっすぐ見つめる人にとって、悲しみや悔(くや)しさの感情は、安堵(あんど)やリラックスの感情より、強いやる気になる性質があるように思います。NHKでかつて放映された「プロジェクトX―挑戦者たち」には、若い頃手術に失敗した悲しみや悔しさをバネに名医になった話、さらには戦争で多くの仲間を失った悲しみや怒りから戦後、その人たちの分まで生きようと社会貢献に力をふるう人の話なども出てきました。

人は崖(がけ)からはい上がろうとする時や、逆流に向かって泳ぐ時にすべての力を振り絞るはずです。そして、その経験は現在の危機を乗り越えるだけでなく、今後の長い人生の大きな自信につながるように思います。

学問を究(きわ)めることは人間の幸福な生活につながるものだと私自身信じてきました。しかし、今回、震災に直面した人たちに私が学んできたことがどのように役立つかを考えると心もとない気がしました。それは私の学んだことがまだまだ未熟な段階にあることを意味します。我々には天災にも立ち向かえるたくましい学問をつくっていく必要があります。皆さんが私の仮説のようにこの苦渋(くじゅう)の状況を力にしてしっかり勉強し、もっと人類の幸福に寄与できる学問に育ててくれることを願ってやみません。

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はやみず・としひこ/1947年愛知県生まれ。
学習の動機づけのメカニズムの研究、最近の若者の動機づけや感情の変化に関する研究。著書『他人を見下す若者たち』講談社現代新書

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