技術の結果をわかりやすく伝える力がいのちを守る
信岡 尚道 | 茨城大学 工学部 都市システム工学科 |
都市など社会基盤づくりをおこなう土木工学の中の一分野である海岸工学では、津波から人々を守る防災都市づくりも研究テーマの1つです。過去の津波の記録を元に、津波による氾濫(はんらん)を予測して、強固な堤防の建設や避難方法の設定で安全を目指してきました。それだけに今回の津波に、我々の力が及ばず反省の気持ちばかりです。
私の地元である茨城や周辺で記録が残っていた大津波は、1677年の延宝(えんぽう)房総津波だけでした。これと同じ津波が現在襲ってきた場合の被害予測を行い、防災計画に用いてきました。しかし私の大きな問題は、次に来るのが数百年先か数千年先なのか、わからなかったことです。市民にこの津波の危険を伝えても不安だけを与えることにならないかと自信が持てず、対策を考えるにも対策が無駄遣(むだづか)いにならないとの確信が持てず、積極的になれませんでした。昨年には独立行政法人産業技術総合研究所の調査で、さらに昔の大津波が、東北地方のみならず茨城まで到達したことがわかりはじめていました。しかし、同じ理由で初期の検討すら躊躇(ちゅうちょ)しました。積極的になれていれば今回の事態を少しでも変えられたのでは、と考える日は少なくありません。
これからすぐに研究しなければならないことは、自然科学では想定できない災害について、工学的な評価技術の確率で想定を行い、「いのち、生活」を守る対策を見つけることです。まれな災害のために膨大(ぼうだい)な予算は使えないので、国の組織で言えば全省庁が連携した、超効率的な避難システムの構築が必要になります。したがって、想定結果や対策案を多くの人にわかりやすく伝えることも大切になります。
みなさんに期待することは、理系を目指す人は文系科目も、文系を目指す人は理系科目もしっかり勉強して、技術の結果をわかりやすく伝える能力、もしくは理解する能力までをそれぞれ磨いてほしいです。そして科学技術を全体で上手く使える世の中になることを期待します。
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