自分はなぜここにいるのか~天文学からの答え

柴田 一成   京都大学 大学院理学研究科
天文学 /研究領域:宇宙電磁流体力学、天体プラズマ、太陽物理 ]

1000年に一度の大地震という。東日本の惨状(さんじょう)をテレビや新聞で見るにつけ、胸の痛まない日はない。私の専門は天文学である。被災地の皆さんを助けるには、あまりにも無力な学問だ。しかし、天文学は我々に何を教えてくれたかお話すれば、あるいは、被災地の皆さん、とくに中高生の皆さんに生きる元気を与えることができるかもしれない。

そもそも、私がなぜ天文学を志したか、というところから始めたい。子供のころ、毎日、自分はなぜここにいるのだろうか?ということばかり考えていた。この問いをつきつめて行くと、結局、宇宙に行きつくことがわかった。それで天文学を専攻した。天文学の研究を始めて30年以上たち、わかったのは次のことである。

宇宙は爆発に満ち満ちている。星は爆発を起こしながら誕生し、死ぬ時も規模は色々だが大爆発を起こす。静かなはずのわが太陽も、詳しく調べると爆発だらけで地球に恐ろしい影響を与えていることがわかった。太陽で爆発が起きると、大量のプラズマ風や放射線が地球にやってきて、人工衛星を故障させたり、宇宙飛行士を被ばくの危険に陥(おとしい)れる。人類はそんな危険な宇宙に進出しようとしている。

通常の太陽の爆発では、地上は幸い厚い大気に守られていて安全だが、1万年に1回の大爆発が起きたら地上にいても危険かもしれない。この5億年間に地球上の生命は5回大絶滅を起こしている。恐竜の絶滅は巨大隕(いんせき)石の衝突が有力だが、それ以外の大絶滅のいくつかは、ひょっとしたら太陽の大爆発が原因かも…。一方で、これらの生命大絶滅がなければ、今の我々は生まれていなかったであろう。大絶滅は生命にとって大変な災難だが、地球上の生命はそれを生き延び、それを糧(かて)として、大きく進化し繁栄してきたのだ。今回の苦難を乗り越えることで、さらに困難な未来の大事業である危険な宇宙への進出を実現するための知恵や勇気を得ることができるのではなかろうか。

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しばた・かずなり/1954年大阪府生まれ。
京都大学大学院理学研究科附属天文台 台長
鉄腕アトムをはじめ、マンガ、SFが大好き。中学1年のときにガモフ著「ひろがる宇宙」を読んで感動し宇宙の分野へ。手塚治虫、梅棹忠夫、司馬遼太郎、長嶋茂雄のファン。大の地図好き。中学・高校時代は柔道に熱中。大学時代は人づきあいを絶って思索にふける。学問、読書、山歩き、囲碁、麻雀の日々。大学院からは学問に集中。

被災された生徒・先生方へ

被災地の方々には、心よりお見舞い申し上げます。つらいときは、宇宙のことを考えてください。宇宙を知ると元気がわいてきます。宇宙を見ると人類の未来が見えてきます。今回の苦難を克服(こくふく)することにより、未来のさらなる発展につなげることができると確信しています。

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