災害が発展させるべき学問がある~より大きな幸福のために

小倉 幸雄   佐賀大学 名誉教授
確率論 /研究領域:拡散過程、ファジィ数学 ]

「今こそ学問の話を」という企画ですが、今回の災害に関連して発展して欲しい分野やテーマを述べてみたいと思います。まず誰もが考えることですが、地球科学、地震予見の精度を上げるために、例えば岩盤プレートの衝突についての大規模で精細な計算機シミュレーションができないものかと思います。火山活動や地球温暖化などについても同じです。

次に都市工学、災害に対応できる都市造りです。既に生活の本拠地と職場を分離するなどの案も提案されておりますが、これなどは今回の被災地に限ったことではないと思います。ただし、災害の起こる確率とコストの関係などもあり、確率論を駆使(くし)した計画数学の発展なども欠かせません。その際、人命は最大限尊重されなければなりません。

自然災害より複雑で深刻なのは原発事故です。外部から見る限り、秩序立った理論もなく、対症療法に追われているように見えます。それが科学技術の不十分さが原因なのか、活用の不手際が原因なのかは分かりませんが、繰り返さないためには双方の研究の進展が必要です。

科学技術については、専門外ではっきりしたことは言えませんが、例えばメルトダウンや水素爆発が起こる条件とか、放射性物質の拡散の問題などがあげられます。また、太陽光発電や蓄電についての画期的な進歩も待たれます。活用については、この種の基礎的研究を奨励し、その結果を尊重するという政治や経営がなされていなかったようですので、これを繰り返さないための組織論や経営学の研究が必要です。

しかし、今回の事故とその対応を良く考えると、もっと根源的な問題、すなわち、そのような政治や経営を求める過度の競争社会や効率主義の問題につき当ります。それは文明への問いかけでもあり、幸福論をも含む、経済学、社会学、政治学、哲学に渡る大きな問題です。

いずれにしても、今回の被災の問題は、自然科学、人文科学すべての分野に関っております。これからの若い皆さんが「人類の幸福のために」を旗印に、斬新(ざんしん)な発想で学問に挑戦されることを希求いたします。

本人写真

おぐら・ゆきお/1941年群馬県生まれ。
拡散過程やファジィ値確率解析の研究をしていました。生物の数学モデルの問題では、シミュレーションによって証明のヒントを得て、厳密な証明を与えた経験があります。

被災された生徒・先生方へ

今回の被災について心よりお見舞い申し上げます。困難な現実に対応しながらも、それに埋没することなく努力を続けて下さい。『夢』を持ち続けることはストレスの緩和にもなると思います。

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