都市を豊かにする産業立地論~「憧れ」は学びの起爆剤に

柏木 孝之   西武文理大学 サービス経営学部 サービス経営学科
産業立地論 /研究領域:集積メカニズム、日本型産業集積 ]

現在は大学で教鞭(きょうべん)をとり、企業経営者や自治体職員に助言を求められる僕だが、若かりし頃、何か社会の役に立つ歯車として、生きていけるか不安な時期もあった。君たちは1960年代末の「大学闘争、世界三極革命」といっても、ピンとこないかもしれない。一言でいえば、大学の運営や制度のあり方を学生から問い直す、それが発展し、既存体制(権力)を問い直すことへと発展した「全共闘」運動であった。それは大勢の学生・院生、助手をのみ込んで急速に拡大したが、1970年代に急速にしぼんでいった。当時、全共闘に身を張っていた若かりし僕は、食事も睡眠もまともにとらない日々を過ごしていた。

この全共闘時代、病弱な僕は健康面での苦難を味わった。肺結核で入院を余儀なくされ、退院後、僕の胸脇には17針の手術痕があったし、抗生物質を毎日1500mgも服用していた。そんな状態だったから、大学卒業後の就職もままならず、人並みに暮らしていけないのではないかという不安な日々をさまよっていた。

この時、全共闘時代に知り合った人物が、学問の世界へ入るきっかけをくれた。彼は大学助手を辞(や)め、地域開発に関する研究所に勤めていた。彼が僕に、君も手伝わないかと声をかけてくれたのだ。この研究所長が産業立地論の大学教授で、僕の学問の師となり、僕が工学博士となる途を開いてくれた。

以来僕は、産業が立地し、それらが集積することにより都市が豊かになり、そこから新たな産業が育成され、さらに都市が活性化するという仕組みについて研究してきた。現在は目下、テキサス州にある都市・オースティンに魅せられているところだ。都市を豊かにしたいという思いの背後には、子供の時にテレビで見た「アメリカの物質的な豊かさ」があるような気がする。どんな苦境にあっても、何かへの憧れは、無意識にも学びや研究の起爆剤になるかもしれない。君たちの心の中にも、あこがれるような暮らしや世界像があるのではないだろうか。

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本人写真

かしわぎ・たかゆき/1947年神奈川県生まれ。
行政の委託調査研究をする研究所で20数年、研究員、研究所長を勤めた後、ある大学の先生の紹介で西武文理大学の前身の文理情報短期大学に、その後、現所属である。大学では、「産業立地論」以外に、「サービス産業論」等も担当している。サービス産業の変化の激しさを興味深く観察している。

被災された生徒・先生方へ

今、東日本大震災後の被災都市の姿を目の当たりにし、僕も「これらの都市に、なんらかの将来像を描きたい。そのために自分が研究者としてできることは何か」という思いを胸に抱いています。大変でしょうが、ゆっくり、時間をかけて、定住環境を整備し、産業再生することを祈念します。

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