安全便利だけではない、長く愛される美術としての建築

越後島 研一   越後島設計事務所
建築意匠学 /研究領域:近代建築史、ル・コルビュジエ、造型論 ]

建築学科はふつう理系に属し、大半の授業で、強く便利で安全な建物を造る方法を習う。しかし建築は、単なる技術の産物ではない。不要になって壊されそうになると反対運動が起こったりもする。人々に語りかけ、心を豊かにし、「生き残らせたい」と思わせる魅力を持ち得るのだ。つまり建築設計とは、狭い理系的課題を超えて「感動を与える美術」を目指す創作活動でもある。

多くの人がパルテノン神殿に感動する。その理由は説明し難(がた)い。なぜ人類最高の建築とされるのか。単に「美しいから」では納得できない。建築家として「人の心を豊かにする建物」を目指すほどに、それが切実な疑問として迫って来る。研究とはまず何より、自分にとって最も重要な、しかも長く持続的に立ち向かえる基本問題への挑戦だといえる。私は日々設計を行いつつ、上記の問題を考えてきた。創作基盤を求める研究だ。「美しいから」では無力。あくまで実例に即し、具体的な指針を求めてきた。

まず歴史上の多様な名作を調べ、その上で、建築における「今という時点」の意味を考えた。具体的には史上最高の建築家で、20世紀建築の核を創造したル・コルビュジェを詳細に研究した。次いで、その影響下で育(はぐく)まれた日本建築に眼を向けた。未だにマンョンや建売住宅に和室があるように、われわれの生活感覚は中途半端な和洋折衷(せっちゅう)状態にある。
直接の起源は昭和初期。数百年間ほぼ変化しなかった庶民住宅が、ル・コルビュジェら西欧最新動向の影響で急変したことだ。それは「中途半端」な変化だったが、その成果たる日本の戦後建築は高い国際的評価を得た。「中途半端」が幸いしたのなら、そこに創作の深遠が見えるはずと思い、当時の約1000冊の建築雑誌を調べた。今日まで続く日本建築の基本問題の長所と短所を捉えようとしたのだ。成果はある程度評価され、学位を獲たが、それ以上に、自分の設計活動の具体的指針となったのが嬉しかった。

さらに一般向けに、読み易い新書でも出版した(※)。多くの人々の建築を見る目が深まれば、短期の間に合わせではない、長く愛される美術としての建築が増え、街は快適になり、心も自然に豊かになり、生活は楽しくなる。そう考えたからだ。

※「ル・コルビュジエを見る」「現代建築の冒険」ともに中公新書

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本人写真

えちごじま・けんいち/1950年神奈川県生まれ。
子供のときから図画工作が好きで、また文系より理系の科目の方が得意だったので、建築家を志した。学生時代は、海外を含め多くの建築を見てまわり、様々な感動を得たが、それらを実際の設計にいかす道筋が判らなかった。自分なり調べ考える必要を痛感し、大建築家や名作についての研究を本格的に行うこととした。

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