声と陽だまり~震災後のある風景から

山本 泰   東京大学 教養学部 国際社会科学専攻・相関社会科学
社会学 /研究領域:社会学理論、現代社会論、社会調査 ]

地震が起きたとき、私は大学の研究棟のエレベータを待っていました。乗る寸前だったので乗らずにすみましたが、10秒遅く地震が来ていたら私は次の日まで閉じ込められていたでしょう。学生を集めて作業をしていたので階段を駆け上がって、皆の無事を確認。学生たちは机の下にもぐって、呆然(ぼうぜん)としていました。急いで皆を帰した後、電車も止まってしまい、身動きのつかなくなった教員たちが同じ階の一部屋に集まり、私が探してきたラジオを囲みました。

余震情報や被災地の様子などをたんたんと読み上げるアナウンサーの声は落ち着いていて、ラジオの周りにすわり、何時間も唖然(あぜん)として聞いている私たちも、少しずつ心が穏やかになっていくのがわかりました。被災地のことを案じ、自分たちの不安を和(やわ)らげようとする祈りの時間のようでした。

週があけて、卒業式の中止が決まったり、原発事故の深刻さがたくさん報道されたりして、皆が浮き足立っていたある日、若い同僚の一人が、建物の脇の陽(ひ)だまりで本を読んでいるのを見かけました。

普段はそこでお弁当を食べている学生はいますが、じっと何時間も本を読んでいる先生なんていません。なんだろう?と思いつつも、何も言わずに何度もそばを通りました。その先生は次の日も次の日もそこにいて、じっと本を読んでいるのです。

その姿がとても印象的で、今も頭から離れません。「落ち着きましょう」というような言葉よりも何倍もの力を以(も)って、私たちの心の中の悲しみや怒り、不安を鎮(しず)めてくれるように感じられたのです。

私たちは他者を感じるというそれだけで、心の支えや慰めを受け取ることができます。一人で受け止めようとするとおかしくなってしまいそうなときにも、安らぎと落ち着きを与えてくれます。負けそうになるときも、きっとあなたのそばにも力を与えてくれる人がいます。そのことを忘れないでいてください。

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やまもと・やすし/1951年東京都生まれ。
社会学は、人間相互の関係・関わりを具体的に研究する学問です。阪神淡路大震災(1995年)の時もそうでしたが、被災地の復旧・復興のプロセスやボランティアの役割などについて研究しています。「いまここ」の復旧(支援)も大切ですが、今後の復興のあり方を長い視点で考えることも重要です。今回の震災についても研究を通して役に立ちたいと願い、様々に活動を開始しています。
『教養のためのブックガイド』小林康夫・山本泰(著)、2005年、東京大学出版会を読んでみてください。

被災された生徒・先生方へ

阪神淡路大震災発生時のボランティア活動に参加した人たちへの調査を1999年に実施しました。調査報告書をご希望の方は、以下のURLをご覧下さい。報告書冊子を郵送いたします。
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