あなたがあなたである証(あかし)とは何でしょうか。あなたがこの世界に生まれ落ちたのは、偶然としか言いようがありません。そして生まれた人間は、誰もが必然的に死すべき運命にあります。この偶然と必然の間の、つかの間のきらめきが命なのです。人間はひとりひとりがかけがえのない存在なのですが、何によってあなたは他の人と区別されるのでしょうか。才能や能力でしょうか。たしかにそれもあります。しかし、どんなに才能があっても、宝の持ち腐れという人もいますし、たまたま自分よりも優れた人がいれば、成功がその人の手に収まってしまうこともあります。環境に恵まれず、才能を開花させられない人も大勢いることでしょう。
では何があなたの真価を決めるのでしょうか。ベストセラー小説で映画にもなった『ハリーポッターと秘密の部屋』で、ホグワーツ魔法魔術学校のダンブルドア校長は、主人公のハリーにこう語ります。「自分が本当は何者であるかは能力で決まるのではない。どんな選択をするかだ」。日常の些事(さじ)から人生の一大事まで、人間は常に意思決定しながら未来に向かって生きています。そのひとつひとつがあなたをあなたたらしめているのです。
行動意思決定論は、人間の意思決定がどのようにおこなわれているのかを実験などで探究する学問です。人間は自分がとても賢い意思決定をしているつもりでも、案外といいかげんに物事を決めていることが少なくありません。時にはそれが大きな事故につながることもあります。今回の福島原発の危機については、災害の危険を訴える声があったにもかかわらず、それが政府や電力会社の組織的な意思決定に反映されなかったことが重大な結果を招いたようです。そのプロセスの解明と防止策の提案が、意思決定論と組織論の研究課題になることでしょう。