人間の安全を保障しない国際平和の矛盾をあばく~国際関係論とは

吉川 元   上智大学 外国語学部 国際関係副専攻
国際関係論、国際安全保障論 /研究領域:予防外交論、平和構築論、安全保障論 ]

「あなたは、外国からの侵略によって殺されるのと、自分の政府の手によって殺されるのとどちらがよいですか」という質問に、あなたはどちらを選択しますか。外国人よりも自分の政府によって殺されるほうがよいですか。このような質問は愚問でしょう。誰だって、誰からも殺されたくない。しかし、これまで私たちは、平和は賛成、戦争はぜったいに反対、そして他国で行われている虐殺(ぎゃくさつ)、ジェノサイド(大量殺戮[さつりく])、迫害を見て見ぬふりをしてきました。よその国のことはどうでもよいからでしょうか。

これまで国際政治の歴史を振り返ると、国際平和、反戦、人権尊重、民族解放を唱(とな)えた国ほど、たくさんの自国民を殺害しています。そうした国はすべて独裁国家です。問題は、国際平和であっても、国民には安全でない国があったわけです。しかも驚くべきは、政府が自国民を殺害した犠牲者数が、戦争の犠牲者数をはるかに上回っているという事実です。このデーターをどのように解釈すればよいでしょうか。

平和は大事です。でも北朝鮮からミサイル攻撃さえなければ、あの国を承認して金正日体制を承認し、支えていこうという論理は、逃げる場さえ失い、牢獄(ろうごく)の中に囲われた北朝鮮の人々への抑圧を間接的に支えていることになりませんか。国際平和と北朝鮮人民の安全を両立させることができるのでしょうか。

近年、国際社会では、「人間の安全保障」とか「保護する責任」が語られるようになり、それは大きな進歩であると考えます。とはいえ、これから武力紛争は増加するでしょう。人口増加、資源の枯渇(こかつ)、水資源などを巡って国内の紛争も国際紛争も増加するでしょう。豊かな先進国は、他国の平和維持(PKO)、紛争の調停、国造り(平和構築)にもう関わらなくなると思います。人的予算も資源も足りなくなります。みなさんが大学で研究し、そこで学び取った英知を生かして、国際平和と人間の安全が両立できるような世界の構築に貢献されることを期待します。

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きっかわ・げん/1951年広島県生まれ。
戦争と平和の諸問題、国際安全保障の仕組みや制度の歴史と現状、民族の戦争の原因、国際平和と人間の安全保障について研究しています。詳しくは私の最近の著書『国際安全保障論』(有斐閣、2007年)、『民族自決の果てに』(有信堂高文社、2009年)を参照してください。

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