文明の転換点に立って~3/11以降の世界の新たな構築

高橋 世織   日本映画大学 映画学部
イメージ論、言語芸術論 /研究領域:19世紀学(映画誕生前史)、環境芸術思想史 ]

3・11は、日本や世界の流れを大きく変えるでしょう。学問自体も大きく変らざるをえません。その意味では、プラス思考するなら、千載一遇(せんざいいちぐう)の好機でもあるわけです。

理系・文系といった腑(ふ)分けが、本当にココに来て行き詰った感じです。科学万能主義的な囚(とら)われ、考え方からも脱却しなければなりません。「想定外」をも想定しておくのが、真の科学や技術思想のあり方です。科学には、自然科学、社会科学、人文科学の3分野があり、これが大学や学問体系を構成していました。そのなかでも人文科学は、哲学や文学・芸術などおよそ、すぐには世の中の役には立たない《虚学》として永い間見られてきました。しかし、ライフスタイル、エネルギー観、生き方や価値観などを、この際根底から見直さねばならないときに、ようやく役に立つ番が回ってきたのです。

「自然保護」といった言い方は、自然を支配できるという傲慢(ごうまん)な人間中心主義的な驕(おご)りの顕(あらわ)れです。自然のもつ計り知れない力や、神秘への惧(おそ)れや畏(おそ)れ敬(うやま)う感情が、神話や宗教、長い年月語り継がれた口承文芸を支えてきました。

3・11は地球温暖化問題ともリンクしています。想定外の波の高さが、温暖化による海面上昇も手伝っていたという指摘だけに留まりません。温暖化によって、大規模な洪水、旱魃(かんばつ)、感染症の大流行などで大規模な犠牲者が出ることの始まりなのかもしれません。

私は、日本映画大学という日本で初めての映画大学で、新しい学問を始めようとしています。

映画は、過去も未来都市も、アンドロイドもお化けや怪獣、森羅万象(しんらばんしょう)あらゆるものを描くことが可能なフレームです。ということは、あらゆる学問と通じ合う通路です。夢や希望や勇気、元気を与えてくれるのも映画です。パニック映画の災害映像(津波、竜巻、洪水)なども「自然災害学」を学んでおく必要があります。また貧困や差別の社会矛盾のテーマは、経済学や社会学、法学などの社会科学の下地と教養も要(い)るでしょう。人間洞察には文学、哲学、芸術の素養やセンスが欠かせません。映画作りや映画学は、あらゆる学問を必要とします。その意味では、諸学が分断気味で蛸壺(たこつぼ)化が進んだ昨今、統合する磁場として《映画学》は一つの有力な新しい学問・教育のモデルとなりえます。

そもそも、地球温暖化問題が、ありとあらゆる智慧(ちえ)を出し合わねばならない神からの試練でもありました。奇貨とすべきものでした。3・11で本当に目が覚(さ)めねばなりません。嘆き悲しんでいるひまはありません。いままでの歴史は、ともすると発明や発展の成功や勝利の語り方で進められました。

これからは、失敗や事故といったマイナス面も大きな負の財産として語り継ぎ、検証しつづけねばなりません。人類の遭遇(そうぐう)した事故や失敗の博物館というコンセプトも、構想されていく時代が来るでしょう。学問や文明のあり方が大きく舵(かじ)を切らねばならない潮時に来ているのです。

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たかはし・せおり/1951年東京都生まれ。
中学校「国語」教科書の監修・編纂員(光村図書)、岩波ジュニア新書『宮沢賢治童話集』(編纂、解説)。地球温暖化問題に対する低炭素社会構築のための学問のあり方を全国の高等学校に、キャラバン講演している。「日本再発見塾」呼びかけ人。文芸評論家。東京工業大学世界文明センター特任教授。

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