大地という舞台の仕組みを探る~地形と人間の関わりを求めて

豊島 正幸   岩手県立大学 総合政策学部 環境政策講座
自然地理学 /研究領域:地形学、河川流域、水資源利用競合 ]

地理学は取り上げる対象が広く、自然現象から人文現象まで及びますが、共通することは人間との関わりでとらえることです。私が専攻した自然地理学の対象は、「土地自然」(地表面近くの自然環境)です。すなわち、地形、植生(ある場所に生育している植物の集団)、気候、土壌(どじょう)などを資源利用や人為の影響という視点から取り上げるのです。

私はその中で、地形(特に、河川地形)と人間の関わり(土地利用)に関心をもち、古い地形(丘陵地)から新しい地形(河岸段丘・扇状地)まで広く対象にしました。地形の成り立ちを明らかにするために、地形を形づくる堆積(たいせき)物の年代やその運搬・堆積プロセス(河川掃流か土石流か)の解明も大きな課題となり、年代測定のほか、堆積物の粒径組成や、電子顕微鏡による粒子表面のキズ跡の解析など、研究はどんどんミクロな分析に向かうようになりました。地形と人間の関わりが遠のいていく思いがしました。

転機は大学の助手だった平成10年秋に訪れました。農林水産省東北農業試験場に転職したのです。当時、窒素(ちっそ)肥料に由来する硝酸性窒素による地下水汚染が、深刻な問題となっていました。与えられた研究課題は、地下水汚染の空間的な広がりを地形学的に予測する手法をつくり上げることでした。地下水はその水位の高いところから低いところへ流れるという原理があります。そこで多くの扇状地地帯を対象に、地下水位の分布図(地下水面図)を作成し地形条件と重ね合わせた結果、浅層地下水の流れが扇状地の成り立ちと密接に関係していることがわかりました。地下水流動を予測するための手法を、地形学の立場から提案できたことは大きな喜びでした。

研究を通して、扇状地など低地の地下水流動を生み出す力が、その背後の山地全体の起伏(位置エネルギー)にあることを学びました。「大地」という大きな舞台の仕組みをもっと知りたいと思いました。持続可能な生活を築いていくために。

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とよしま・まさゆき/1952年山形県生まれ。
入学後「サイエンスがすべてではないのでは?」と自問する日々が続きました。その過程で得た結論は、大学は「用語」と「論理」を磨くというサイエンスの場であること。サイエンスの領域をしっかり描き出すことができれば、残りの領域も自ずと見えてくると思えたのでした。「用語」と「論理」を磨きつづけていきたい。

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