文理両道は世界の常識。自分をどちらかに決めつけないで
川島 博之 | 東京大学 大学院農学生命科学研究科 国際開発農学専修 農学国際専攻 |
福島原発の事故は、私たち日本人が持っていた科学技術に対する信頼を大きく揺るがせてしまいました。絶対安全と言われていたものが、安全ではなかったのです。そして、事故後の関係者の対応も、ほめられたものではありません。未(いま)だにドタバタ劇が続いています。
その原因はいくつもあるのでしょうが、日本の教育があまりにも、文化系と理科系をきちんと分けてしまったことにもあると思います。高校時代に文化系を選択すると、物理を本格的に勉強する機会がなくなってしまいます。反対に、理科系を選ぶと世界史を勉強することはほとんどありません。
事故後、シーベルトやベクレルと言った耳慣れない言葉を聞きましたが、それを正しく理解しないと、必要のない心配をしなければならなくなります。噂(うわさ)に踊って風評被害を広げることにもなりかねません。それには、ある程度の理科系の知識が必要なのです。
また、今後、原発を廃止すべきかどうかを冷静に議論するには、世界の現状について知っていた方が良いと思います。そして、世界を正しく理解するためには、世界史の知識が欠かせません。つまり、原発事故に対処するためには、文化系の知識も理科系の知識も必要になります。欧米には文化系、理科系という概念はありません。大学で物理学を習い、大学院で経済学を専攻したとしても、ちっとも不思議ではありません。
現在の受験システムの中にいると、高校までは文化系、理科系に分かれて勉強せざるを得ないと思います。しかし、大学に入ったら、そして大学を出たら、自分を文化系人間や理科系人間などと限定せず、ぜひ広く勉強してください。諸君がこれから世界で会う人は、優れた人であればあるほど文化系、理科系に分けることなく深い教養を持っています。受験システムに縛(しば)られることなく、自己の教養を深めてください。それが21世紀の日本を再び活力のあるものに変えてゆくと思います。
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